「ふるさと納税」は、一見すると人畜無害そうな制度です。一見良さそうな政策にも、副作用があることもしばしばです。最近では自治体が寄付のお礼として贈る「返礼品」の競争が過熱し、制度本来の趣旨をゆがめています。また、特に都市部の自治体の税収減も相当です。総務大臣も問題視するようになってきました。今朝の西日本新聞の社説でも批判的に言及していました。
たとえば、都城市の宮崎牛の返礼品が人気で、都城市のふるさと納税の寄付金額が42億円に達するそうです。ふるさと納税で返礼品をもらった人とっては、負担した金額以上の牛肉がもらえるのでお得な制度かもしれません。しかし、その裏でだれかがその牛肉代を負担しています。
その費用を負担しているのは、他の自治体の納税者や全国民です。例えば、世田谷区はふるさと納税のために、昨年16億5千万円の税収減が発生しました。世田谷区の公共サービスには大きな負担です。国税分の減収もありますが、そちらは全国民で負担を分かち合うことになります。牛肉を食べていない国民も、牛肉代を負担していることになります。
ふるさと納税のメリットを受ける人は少数ですが、デメリット(負担)を受ける人は広く薄く大勢です。メリットを受ける少数はよろこぶものの、デメリットを受ける多数(=全国民)はデメリットを実感しません。デメリットを実感しないので反対する人はあまりいません。そこでふるさと納税という、税制上(かつ分配上)邪道な制度が生き残るわけです。
生まれ育ったふるさとや被災地の自治体への寄付は尊い行為です。しかし、返礼品目当てでふるさと納税を利用するのは、本来の趣旨から外れ、尊い行為とは言えません。NPOや病院、大学等への寄付と比較して、ふるさと納税だけがけた外れに優遇されている点も不公平な感じがします。それに、税収減に苦しむ自治体やツケを払う全国民にとっては、ふるさと納税は良い制度とは言えません。
私も2014年9月26日に「ふるさと納税への疑問」というブログを書きました。そのときの懸念は正しかったことが再確認できました。いま読み返しても手直しする必要がなさそうなので、ほぼ当時のまま再掲します。
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ふるさと納税への疑問(2014年9月26日ブログ)
以前から「ふるさと納税」に関しては、自治体の熾烈な贈り物競争を見ていて、何となく違和感を覚えていました。
片山善博教授(慶応大/元鳥取県知事)が、「自治体を蝕む『ふるさと納税』」というコラムを書かれていて、納得しました。片山先生のご指摘の概要を要約すると以下の通りです。
実は「ふるさと納税」という制度は、自治体に対する寄付の税控除である。納税ではなくて、寄付金優遇である。
例えば夫婦で年収700万円の人が、自治体に3万円を寄付したとしても、所得税と住民税から2万8千円が、控除され実質負担は2千円である。
一般の寄付であれば所得税と住民税は、3万円寄付した場合でも8千4百円しか軽減されない。「ふるさと納税」はかなり優遇された寄付金優遇税制である。
2千円を超える見返りが得られる場合、寄付者は得をする。そのため自治体が見返りを提供して寄付を募ろうとする動きが出てくる。
ある市は3万円寄付した人に対しては、1万円相当のハムと果物を贈る。寄付者はわずか2千円を負担するだけで、1万円相当のハムと果物がもらえる。きわめて「おいしい」制度である。
1万円相当のハムと果物をもらった寄付者は、8千円儲かる。自治体も2万円儲かることになる。1万円の物品購入費も自治体内の生産者や業者に落ちるため、自治体の地域活性化につながる。
寄付者も「おいしい」思いをできる。自治体も税収が増えて「おいしい」。物品を納入する業者や農家も儲かる。一見するとみんなハッピーに見える。
しかし、寄付者が住む自治体は税収減。国の税収もやはり減る。しわ寄せはどこかに出ている。損をするのは、国と寄付者の居住地の自治体。
寄付者の居住地の自治体と国の税収を減らして、寄付者と寄付先の自治体が潤う。単なる「ゼロサムゲーム」でしかない。
つまりは、自治体同士で限りある税収を奪い合いながら、間違いなく国の税収を減らしているのが、この「ふるさと納税」制度だと言えます。
こういう制度は健全とは思えません。見返りを目当てに寄付するのは邪道です。それでは商取引と何も変わりません。税金で補助された商取引みたいなもので、不公平です。
しかし、ふるさとに貢献したいと思いは尊いもので、その点は評価されるべきです。故郷への寄付はよいことです。いっそ「ふるさと納税」の税控除の金額は、通常のNPO等への寄付と同じレベルとすべきです。そして「純粋な寄付」に戻していくべきです。