今日のブログの刺激的なタイトルは、エマニュエル・トッドの著書からとりました。エマニュエル・トッドは、フランスの歴史人口学者・家族人類学者です。いつもユニークな視点で世の中を分析し、見事に未来を予言してきました。人口動態からソ連の崩壊を予言して有名になり、「リーマンショック」や「アラブの春」も予言しました。さらにイギリスのEU離脱も数年前から断言していて、その通りになりました。
エマニュエル・トッドは、個人の自立と社会的(公的)支援の関係について次のように述べます。
核家族は個人を開放するシステム、個人が個人として生きていくことを促すシステムですが、そうした個人の自立は、何らかの社会的な、あるいは公的な援助制度なしにはあり得ません。より大きな社会構造があって初めて個人の自立は可能になります。「個人」とより大きな「社会構造」には、相互補完関係があるのです。
日本には「家族」イデオロギーが根強くあるようですが、すべてを家族が担うやり方には無理があると思います。たとえば、かつては家族単位で農業などの生産活動が担われていました。それに対し、今日では子供の教育負担に家族の第一の役割があります。しかし、大学進学率が50%を超える時代に、子供の教育費用のすべてを家族で賄うことなどできません。老人介護も同様です。すべてを家族に負担させようとしても、「家族」イデオロギーによって過去の伝統や文化を守ろうとしても、うまく機能しないのです。家族の負担だけでなく、公的扶助が必要です。「家族」を救うためにも、家族の負担を軽減する必要があります。
かつて日本で受けたインタビューで、日本について、「家族の過剰な重視が、家族を殺す」と述べたことがあります。「家族」というものをやたらと賞揚し、すべてを家族に負担させようとすると、かえって非婚化や少子化が進み、結果として「家族」を消滅させてしまうのです。
まさしく今の日本で起こっていることです。自民党の憲法草案に示される家族観とそれに基づく家族政策が、「家族の過剰な重視が、家族を殺す」という状況を作り出しています。
非婚化や少子化を防ぐためにも、家庭の教育費負担を軽減したり、子育て支援を強化したり、介護サービスを充実させることが不可欠です。民進党の訴える「人への投資」こそが、家族を殺さないために必要な政策です。
自民党政治の根本にある家族観が現在の日本の現実にあっていないことは、エマニュエル・トッドの説明からも明らかです。それも政権交代が必要な理由のひとつです。
*出典:エマニュエル・トッド 2016年 『問題は英国ではない、EUなのだ』 文春新書