国政選挙(もうすぐ始まる参議院選挙)は、「どんな社会モデルをめざすのか」を選ぶ機会でもあります。大雑把にひと言でいうなら、自民党は「自己責任社会モデル」をめざし、民進党は「共生社会モデル」をめざすと要約できると思います。
A)自民党「自助努力や家族内福祉による自己責任社会モデル」
自民党は、自助や家族内の相互扶助を尊び、自己責任を重視します。自民党憲法草案を見ても「家族は互いに助け合わなければならない」とあります。夫は終身雇用の正社員、専業主婦の妻が高齢者の介護や子育てに専従する「標準世帯」が自民党モデルです。
専業主婦世帯を前提とした「自助・共助・公助」の発想は、自己責任性を当然視します。社会保障や教育を個人や市場原理にゆだね、租税負担率を低く抑えてきました。公的な社会保障の弱いところを、家族や企業が補ってきた社会モデルといえます。
かつての自民党モデルを「土建国家レジーム」と呼ぶ学者もいますが、社会保障や子育てを個人(家族)、企業に任せて、政府は公共事業に力を入れるのが、伝統的な自民党モデルといえるでしょう。
高度経済成長期は「標準世帯」の割合が高く、「標準世帯」を基準に制度をつくっていてもそれほど支障はなかったかもしれません。しかし、いまや夫婦共働きが過半数を超え、専業主婦は減少しています。さらに、ひとり親世帯が増え、3世代同居も減るなかでは「自助・共助」が困難な家庭が増えています。さまざまなリスクを家族に背負わせる仕組みは、いまの日本では機能しません。
また、自民党モデルは経済成長を前提とし、「経済成長のおこぼれで弱者救済」という発想が根底にあります。所得再分配には冷淡で、格差拡大を気にしないのも自民党政権の特色です。経済成長を最優先し、法人税の引き下げや円安誘導など、大企業や輸出産業を重視し、労働環境の悪化や非正規雇用増加を招く政策を進めてきました。
自己責任原則と市場重視の政策が、所得格差、教育格差、地方と都市の格差、世代間格差など、さまざまな格差を広げてきました。格差により分断された社会は、不安定で不安な社会です。
B)民進党「社会全体でリスクを共有する共生社会モデル」
民進党は、格差の小さな共生社会をめざします。個人や家族だけではなく、社会全体でリスクを共有し、安心できる社会をめざします。家族内で助け合いたくても、シングルマザーや障がい者のいる家庭では、自助努力にも限界があります。事故や大震災、病気をきっかけにだれでも弱者になる可能性があります。子どもの貧困は、子どもの責任ではありません。人生のさまざまなリスクを個人や家庭だけで抱え込まず、社会や地域全体で支えあうモデルです。
共生社会モデルは、教育、医療、育児・保育、介護といった現物給付(サービス提供)を重視します。現物給付はあらゆる人が必要とするもので、これらのサービスは無償ないしは低価格で提供される必要があります。人間のニーズを満たす現物給付は、女性の就労を増やし、介護離職を減らすなどの結果につながるため、所得格差の是正にも役立ちます。
また、民進党モデルは、所得に関係なくすべての人が受益者になると同時に、広く負担を共有する社会が望ましいと考えます。格差の問題に取り組み、社会的不平等をなくすことをめざします。社会保障費削減に歯止めをかけつつ、受益と負担のバランスを回復し、すべての人が受益し、すべての人が広く負担を共有する社会をめざします。所得税の累進性を強化し、大企業にも応分の負担を求め、相続税を通じて格差を是正していくことも必要です。
富裕層や輸出中心の大企業にとっては民進党の方向性は不利に思えるかもしれません。しかし、国際機関や学者の研究でも、格差拡大は経済成長率を低下させることが実証済みです。社会保障を重視することは、決して経済成長と矛盾しません。格差を縮小し、社会保障を充実させることが、経済成長にもプラスに作用します。また、格差の拡大した分断社会は、治安の悪化を招いたり、教育環境の悪化で労働者の質が低下したりと、富裕層や大企業にとってもマイナスの影響を与えかねません。
所得格差、世代間格差、都市と地方の格差、男女の格差、正規と非正規の格差などの社会の分断線を取りさり、社会の融和を実現することは、すべての人にとってプラスです。やさしい社会、安心できる社会こそ、強い経済の前提です。
自民党型の「自己責任社会」を選ぶのか、それとも民進党型の「共生社会」を選ぶのか、参議院選挙はその判断のときです。これからの社会のあり方を選択するのが、7月の参議院選挙です。