世界のリベラル政党の政策(1)カナダ自由党

立憲民主党が政権をめざす上で、世界のリベラル・社会民主主義の政党がどういう政策や方針をとっているのかを知るのは有益だと思います。これからシリーズで「世界のリベラル政党の政策」を書いてみたいと思います。

第1回はカナダの自由党(Liberal Party of Canada)です。カナダには労働党が存在せず、その代わりにリベラル政党として長年にわたって政権を担ってきたのが自由党です。いまも政権与党です。

自由党は2011年総選挙で歴史的な大敗をして下野します。野党転落後に党改革をすすめ、2013年に党首選挙で若きジャスティン・トルドー(現首相)を選びます。そして2015年に総選挙で政権奪還に成功しました。

最近のカナダ自由党の主要な政策文書(Platform)を読んでみました。その前文では、まずコロナ対策への協力を国民に呼びかけつつ、コロナ対策の実績を訴え、主要政策を述べます。

カナダ自由党は「中間層と中間層入りのためにがんばっている人たち(middle class and people working hard to join it)」のために働くという点を強調します。「貧困層」や「低所得層」ではなく、「中間層になろうとがんばっている人たち」という言い方は感じが良いと思いました。

そして「もっとも裕福な1%の人たちの税金を増税しました」と誇らしげに述べます。政権与党の自由党だけに言葉に重みがあります。増税になった富裕層の多くは不快かもしれませんが、「99%のための政党」というアピールは見習うべきだと思います。

前文に最初に出てくる主要政策は貧困対策です。子どもの貧困問題も目玉です。次に出てくるのは気候変動対策です。温室効果ガスの排出削減が優先課題とされています。コロナ禍からのビルド・バック・ベター(build back better)という言葉も出てきます。

この政策集の表紙のキャッチコピーは「すべての人のための前進(FORWARD FOR EVERYONE)」です。私の理解では、SDGs的な「だれ一人取り残さない」ということを、もう少し前向きに表現すると「すべての人のための前進」になるのでしょう。リベラルな政党らしいフレーズだと思いました。

政策が箇条書きなっている本文で最初の柱がコロナ対策というのは予想の範囲内でした。第2の柱は保健医療。コロナ対策からの自然な流れです。特に印象的なのは、精神医療への支出を増やし、メンタルヘルス分野で働く医療関係者の待遇改善といった項目が入っている点です。

予想外だったのは、第3の柱が住宅政策であることです。中間層のための住宅政策、居住者の権利の保護、住宅の投機の抑制が、重要政策として並んでいます。日本ではちょっと考えにくい優先度だと思いました。住宅政策が、医療政策の次、経済政策や教育政策よりも先に出てきます。

経済政策はやっと4番目に出てきます。自民党であれば、経済政策はおそらく1番目か2番目に出てくると思います。そこが日本の保守政党とカナダのリベラル政党のちがいかもしれません。私は「経済を重視し過ぎない」点に好感を持ちました。経済成長よりも分配(格差対策)を優先するのは正しい政治姿勢だと思います。

第5の柱は、過去の先住民の同化政策への反省、差別や格差の解消です。先住民政策は日本ではほとんど話題になりませんが、カナダ自由党やニュージーランド労働党の政策文書では非常に重視されます。

第6の柱は、環境政策、緑の雇用創出プラン、工業分野の温室効果ガス抑制、自然エネルギー政策、プラスチックごみ削減策等です。もう少し気候変動対策を強調してもよいのではないかと思います。ひょっとするとカナダのように寒冷な国では温暖化の切実度は低いのかもと疑ってしまいます。

地球温暖化でもっとも深刻な被害を受けるのは熱帯の国です。特にアフリカでは1度の平均気温上昇で何百万人もの命が失わられると言われます。ロシアは、温暖化で北極海航路が使いやすくなったり、耕地が拡大したりと、メリットも多いと言われていて、あまり地球温暖化対策に熱心ではありません。カナダも同類なのかと疑念を抱いてしまいました。

これらの柱以外には、税制や外交、安全保障、治安等が羅列されますが、それほど重視していない雰囲気を感じます。たとえば、安全保障についての記述は薄いです。

カナダにとって差し迫った安全保障上の脅威はないのかもしれません。ロシアや中国のようにアグレッシブな外交安全保障政策をとる国と境を接しているわけではありません(ロシアとは北極圏を挟んで向き合っていますが、領土問題が深刻なわけではなさそうです)。イスラム原理主義テロの脅威も欧州ほどでもありません。

立憲民主党が政権与党であるカナダ自由党から学ぶべきは、第一に中間層重視の政策だと思います。カナダ自由党の中間層重視の選挙公約は成功しました。

かつては「一億総中流」と言われていた日本でも、所得格差が広がり、非正規雇用が増え、貯蓄ゼロ世帯の割合が大幅に増え、「中間層消滅」と言える状況です。中間層のための政策に力を入れ、それをアピールすることは重要だと思います。

そして「1%のためではなく、99%のための政党である」というアピールは重要だと思います。イギリス労働党のちょっと前のキャッチコピーは「FOR THE MANY, NOT THE FEW」でしたが、これも同じ趣旨です。

カナダ自由党が高らかに「1%の富裕層には増税しました」と宣言しているように、立憲民主党は「1%の富裕層には増税します」と宣言したらよいと思います。下げすぎた法人税も、もとに戻すべきです。気候危機に対応するために炭素税も導入すべきです。

いまの財政状況を見て有権者・納税者の多くは「財源は大丈夫なのか?」と心配していると思います。バナナのたたき売りのように減税を前面に打ち出しても、心配が増えるだけではないでしょうか。貧困と格差を解消するには、再分配が重要です。再分配するためには、まず元手が必要です。

オックスファムのレポートで見るようにコロナ禍でさらに超富裕層が豊かになる一方で、貧困層が拡大しています。富裕層の所得税の増税、法人税の増税、炭素税の導入(=増税)が必要です。ある意味で「良い増税」を打ち出す時期だと思います。

そういう点も踏まえ、立憲民主党は、カナダ自由党の富裕層の増税アピールから学ぶべきだと思います。もちろん増税を公約に掲げれば、反発は受けます。しかし、応援してくれる人もいるはずです。本気で政権交代をめざすなら、あまり八方美人的にならず、一部のグループの反発を覚悟で、新しい政策を打ち出すことも必要だと思います。カナダ自由党の増税アピールを参考にしたらよいと思います。