いまは選挙に向けた活動で忙しくしておりますが、総選挙後に取り組みたいテーマがたくさんあります。そのひとつが党改革です。立憲民主党の基礎体力を強化する3つの改革案を考えています。第一に政党シンクタンク創設、第二に米国事務所の設置、第三に政治塾(政治家養成講座)の開設と全国展開です。今回は政党シンクタンクの創設について書きます。
立憲民主党には政務調査会(政調)という部署があります。政調会長は党幹部ですし、政調事務局には専従職員が十数名います。政調事務局は日々の政策立案や議員提出法案づくりなどに取り組んでいます。それに加えて政党シンクタンクを創設すべきだと思います。
現在の政務調査会事務局は、どちらかと言えば、日々の法案対応や部会のロジ等の目の前の業務に追われ、じっくり時間をかけて長期的な調査研究ができる体制ではありません。また、政調スタッフの多くは、いわゆる総合職的な採用の職員であり、党内の人事異動もあります。党職員は学術的なトレーニングを受けた人ばかりでもありません。
政調事務局と連携しつつ、専門性の高いスタッフ(研究員)を何人か抱えて、長期的な政策課題に取り組む政党シンクタンクを創りたいと思っています。政党シンクタンクは、党の執行部の指示のもと、長期的なテーマの調査研究に取り組んだり、外部の研究者や他のシンクタンクとネットワークを形成して最新の研究成果を取り入れたり、現場の声やNPOの政策提言を聞いたり、さまざまなアイデアを吸収する受け皿になります。
政党シンクタンクは、党の政策を正しく理解してもらうため、メディアへの広報活動や一般市民向けの啓発キャンペーン、党の地方組織との共催のイベント等も積極的に行います。アカデミックな研究機関と政党シンクタンクとの最大のちがいは、情報発信や啓発活動を重視する点です。政党の「政策コミュニケーション」の司令塔になるのが政党シンクタンクです。
公共政策に関しては、すばらしいアイデアを持っていても、学会の限られた人にしか知られていなければ意味がありません。政策のアイデアを世間の人に広く知ってもらい、それに対する支持を広げることが大切です。わかりやすく論点を整理して、広く知ってもらう広報機能が重要です。
実は民主党時代には政党シンクタンクがありました。2005年から2009年まで「公共政策プラットフォーム(プラトン)」という党所属のシンクタンクが存在しました。プラトンでは、大学の研究者や実務の専門家、各界のオピニオンリーダー等を招き、国会議員も加わり、基本政策を議論していたようです。専属の研究者はいないものの、「ネットワーク型プロジェクトチーム」で政策を提言していたようです。
どんなに優秀な政治家でも、ひとりで情報を集めたり政策を立案したりするのには限界があります。個々の政治家の個人技に頼るのではなく、チームで組織的に政策を研究し、政策提言や情報発信を行うことが大切です。与党なら霞が関の情報と人材(官僚)を使って政策を立案できます。しかし、野党は政府情報へのアクセスが限られるため、シンクタンクの活用で弱点を補うことができます。
また、かつては「霞が関は日本最強のシンクタンク」と言われていました。しかし、各省庁の省益(あるいは局益)や業界団体とのしがらみがあるため、現状を大きく変革するアイデアは出にくいです。さらに官邸一極集中の今では人事権を握る官邸の顔色ばかりをうかがう官僚が多くなり、霞が関から優れたアイデアが出てくる可能性は現状では低いと思います。霞が関に依存しない政策づくりのためにも、政党シンクタンクの必要性は以前よりも増しています。
ちなみに、シンクタンクの本場 アメリカでは、政党所属のシンクタンクはありません。アメリカには1800以上のシンクタンクがあり、民主党系とか共和党系といった党派的な色はあっても、政党直属ではありません。韓国では政党助成金の一定割合を政党シンクタンクに支出することが定められていて、政党シンクタンクの活動が活発だと聞きます。
立憲民主党のシンクタンクは、最初は専従スタッフ(事務方)が3~4人くらい、政策のとりまとめができる専門家(研究者や官僚OB等)3~4人くらいでスタートしたらよいと思います。事務方スタッフは今いる党職員で対応可能です。政策スタッフは、学者やジャーナリスト、官僚OB等をリクルートするのがよいと思います。学問的な知識が豊富なだけではなく、行政や立法府の内部の動き方もわかる人がベストです。知識と実践のバランスの良い人が理想です。
シンクタンクのトップは閣僚経験者や政策通の元政治家がよいでしょう。現職議員だと生臭いので、元議員がいいかもしれません。トップは、政策に詳しく、霞が関事情に通じ、博士号を持っていて、選挙戦略に強く、政局(権力闘争)にも明るく、メディア対策に長けて、国会対策もわかる元議員が理想です。もっともそんな人がいたら、議員を引退しない方がいいかもしれませんが。
政党シンクタンクは、自前の研究をガリガリやれるほどの人員が多くないので、独自の研究はあまり手掛けず、他の研究機関やNPO等と連携する「ネットワーク型シンクタンク」をめざすとよいと思います。シンクタンクの研究員の役割は、世の中で起こっている問題にいち早く気づき、良いアイデアも持っている人がどこにいるかを把握し、実際の政策に反映させることです。政策研究の「コーディネーター」あるいは「編集者」としての能力が求められます。
研究者や現場の専門家のデータベース的なものをつくり、議員が国会の質疑のために情報を集めたいときや専門家の意見を聴きたいときに、議員と専門家をつなぐ役割も担うこともできるでしょう。国会図書館や衆議院調査局と一部の機能が重複しますが、立憲民主党の考えに近い研究者や専門家の人材をデータベース化できるのが強みです。
このような政党シンクタンクがあれば、立憲民主党の政策立案能力を強化し、発信力も高められます。政党の売り物のひとつは政策です。政策に強い政党をめざすためには、政党シンクタンクの創設が必要だと思います。総選挙が終わったら党内で提案して実現していきたいと思います。