最近の日本経済新聞は、翻訳記事が特におもしろいです。英国の「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)」を買収して傘下に収めたおかげでしょうか。親会社の日本経済新聞紙よりも、子会社のフィナンシャル・タイムズの方が世界的に有名というのは、おもしろい構図だと思います。新聞の内容面でも親会社より子会社の方が優れているかもしれません。
最近では日本経済新聞(7月27日付)のオピニオン欄のエドワード・ルース氏の「世襲される『上から目線』」という記事はおもしろかったです。タイトルを見て日本の政治のことかと思いましたが、ちがいました。トランプ大統領の娘のイバンカ氏の「上から目線」ぶりについての記事でした。
自らを「ファーストレディ」に倣い「ファーストドーター(大統領の娘)」と呼ぶイバンカ氏は7月14日、約3千万人の失業者にスキルでも仕事でも「何か新しいことを見つけるよう」に促した。
(中略)
失業は都市封鎖の結果であり、自身のせいだなどと言われたい人はいない。この世情の疎さは、浮世離れしていて有名だったあのフランス王妃マリー・アントワネットも顔負けだろう。
自宅のソファーで優雅にくつろぐ動画投稿で世間のひんしゅくを買った総理大臣も、やはり「世情の疎さ」では負けてません。同じように「世襲される『上から目線』」と言えるでしょう。
エドワード・ルース氏は次のように言います。
米国には、自分は巨額の財産を相続できるので経済的に苦しい人たちに説教してもいいと勘違いしている人が多く、イバンカ氏も同類といえる。
日本にもいますよ。
他人に迷惑をかけず自分の努力でお金持ちになった人は、尊敬されてよいと思います。しかし、単に親から莫大な遺産を相続して大金持ちになった人が、あたかも自身の刻苦勉励で裕福になったかのような錯覚をし、他人に説教するのはこっけいです。
何かの雑誌で読みましたが(出典は忘れましたが)、トランプ氏が父親から相続した財産をそのまま投資信託か何かに預けておけば、いま以上の資産家になれたそうです。不動産業やホテル業でビジネスするよりも、投資銀行に相続したお金をそのまま預けておいた方が投資効率がよかったそうです。
実際にトランプ氏はカジノビジネスなどで失敗しています。その記事が正しいと仮定すれば、トランプ氏が実業家として成功したというのは幻想に過ぎないことになります。「ビジネスマンとして成功した」というイメージで売っていますが、政治家として多くの失敗をしているのを見ても、かなりあやしいです。
失業者に対して「新しいことを見つけよう」と演説したイバンカ氏は、自分で「新しいことを見つけ」る人生を歩んできたのか、あやしいものです。
イバンカ氏は職探しの必要がなかった。大学卒業後は父親の会社で働き、やはり父親のお金でファッションブランドを立ち上げた。そして大統領補佐官の職を得た。その大統領が父親だった。
日本の世襲議員にも似たような人生を歩んでいる人がいます。安倍政権の閣僚人事を見ると、自民党の大臣の半分くらいは世襲議員です。
自民党によくいる世襲議員のパターンは;
- 親の選挙区がある地方ではなく、東京で育つ。
- 東京の私立の名門小学校や中高一貫校で学び、名門大学に進学する。
- 親のコネで有名企業に就職してハクをつける。
- 若くして親の小選挙区を引き継ぎ当選する。
- 親から後援会組織やスポンサー企業、人脈を引き継ぎ、最初から盤石の体制で政治活動をスタートする。
- 選挙に強いので、地元活動に力を入れる必要がない。そのため政策の勉強や海外出張、東京の後援会組織づくり(=政治資金集め)に集中できる。
- 順調に当選回数重ねて、派閥推薦枠で大臣になる。
というパターンです。安倍晋三総理も麻生太郎副総理もそうでしょう。次の総理候補の岸田文雄氏も石破茂氏も似たり寄ったりではないでしょうか。
ポスト安倍の有力候補に名前があがる自民党議員のうち、世襲議員でないのは菅義偉官房長官くらいでしょうか。
世襲議員の多くは、イバンカ氏と同じ「上から目線」になってはいないでしょうか。親の七光りを忘れて、自分の実力で大臣になったと思っている世襲議員がたくさんいるような気がします。
永田町政治(特に自民党政治)の世界は、まさに「世襲格差社会」です。世襲格差社会の「勝ち組」の議員たちが、世の中の格差拡大に冷淡なのは理解できます。世襲議員でありながら、生活保護バッシングしている輩など、政治家失格だと思います。
世襲議員が本当に有能で日本を正しい方向に導いているのであれば、「世襲」という理由だけで否定できません。しかし、世襲議員の総理や副総理が、コロナ危機にうまく対応できているとも思えないし、困っている人や弱い立場の人たちに対する想像力が十分あるとも思いません。
イバンカ大統領補佐官の「上から目線」はおかしいと思いますが、日本でも同じようなことが起きています。そろそろ「上から目線」の世襲政治はやめにしたいものです。政治の世界は、親の職業に関係なく、「がんばれば報われる」世界にしなくてはいけないと思います。世襲政治の自民党政治を終わらせなくてはいけません。
2017年8月8日付ブログ「名づけて『世襲格差内閣』」
2018年9月12日付ブログ「平成は世襲総理の時代」