政府4演説(首相、外相、財相、経済財政相)を聴いて

昨日は衆議院で政府4演説(総理大臣、財務大臣、外務大臣、経済財政担当大臣)の日でした。4人の各大臣の性格のちがいが出ていておもしろいです。

まず安倍総理の施政方針演説。安倍総理のように「昔はよかった」と言いたがる復古主義者は、明治維新の話がお好きです。白虎隊の生き残りで東京帝大総長になった山川健次郎の話から始まりましたが、よく原稿を読み返してみても必然性を感じないストーリーでした。少子高齢化という「国難」にたちむかう文脈でしたが、明治期の山川健次郎の話は唐突感が残りました。

その他に気になったのは、日本語として違和感のある表現が散見された点です。たとえば「戦後以来の林業改革に挑戦します」という文章が出てきますが、どうしても「戦後以来」という表現が気になります。正しい日本語なのでしょうか。違和感をおぼえない人は、おそらく本をよく読んでいない人だと思います。書いたのは官僚かもしれませんが、政策文書や法律ばかり読んでいて、日本語に対する感性が劣化しているのかもしれません。

*ご参考:2017年7月5日付ブログ「本を読まない首相【書評】『田中角栄と安倍晋三』」

本を読まない首相【書評】保阪正康著「田中角栄と安倍晋三」(2)
ちょっと間があきましたが、保阪正康さんの「田中角栄と安倍晋三」の抜粋的書評のパート2です。この本でもうひとつ興味深かったのは、東条英機と安倍晋三の両首相の共通点です。 保阪さんによれば;

また「スタンド・オフ・ミサイル」などという軍事の専門用語が、何の説明もなく出てきます。NHKテレビの中継を見ていた国民のうち何割が「スタンド・オフ・ミサイル」という言葉の意味を理解したかわかりません。不親切であり、説明責任を果たそうという意志が感じられません。

信頼できるのか疑問のある首脳との信頼関係を誇る点も疑問です。たとえば;

トランプ大統領とは、電話会談を含めて二十回を超える首脳会談を行いました。個人的な信頼関係の下、世界の様々な課題に、共に、立ち向かってまいります。

米国大使館のエルサレム移転問題のように、トランプ大統領自身が「世界の様々な課題」を増やしている張本人です。トランプ大統領との信頼関係を信頼してよいのか大いに疑問です。

さらに「プーチン大統領との深い信頼関係」と言いますが、KGBのスパイマスター出身のプーチン氏が自国の国益を最優先にするのは当然です。この「信頼関係」もどこまで信頼できるか疑問です。日ソ中立条約を忘れてはいけません。

麻生財務大臣の財政演説は、役人が書いた短冊集を編集しただけのシロモノで、面白みはまったくありません。コメントすることはあまりありません。

茂木経済財政担当大臣の経済演説も麻生大臣同様に役所っぽい文章で面白みはありません。何の説明もなく「Society 5.0」といった変な専門用語が出てくるのが鼻につきます。国民に理解してもらおうという姿勢が欠如しています。

ユニークだったのは河野太郎外務大臣の外交演説です。どう考えても河野太郎さんの個人的な意向と思われる政策がいくつも出てきます。大臣が代わると、こうも政策が変わるものかとおどろきます。たとえば、次のような文章は、河野太郎さん以外には出てこない発想です。

普天間飛行場の一日も早い辺野古移設を含め、地元の負担軽減に全力で取り組むとともに、英語で教える小学校の開設など、米軍施設の資源も活用した沖縄の一層の成長につながる国際化支援を一層進めます。

米軍基地のある自治体で「英語で教える小学校の開設」というのは、河野さんの長年の持論です。そもそも外務省が小学校開設を訴えるのは、霞が関の常識ではあり得ません。もっとも私は「英語で教える小学校」というような、“英語帝国主義”の植民地的な発想は好きになれませんし、良い政策だとも思いません。

その他に前向きに評価できるのは、中東外交の強化です。中東和平に日本が積極的に関与するのは賛成です。イスラム圏との対話や知的貢献は、非キリスト教国の日本として独自の役割が果たせるかもしれません。イスラム原理主義・過激主義のテロを取り締まるという発想だけでなく、イスラム諸国の穏健派や世俗派と協力するという発想は重要だと思います。この点の河野カラーには賛成です。

河野外務大臣の方針には、違和感を覚える部分、反対の部分もある一方、賛同できる部分も多々ありました。まちがった方向に行かないよう、国会がきちんとチェック機能を果たし、良い方向に進んでいる政策は積極的に応援していきたいと思います。