安倍一強の分析と民進党改造計画(2)

今回は「安倍一強」の連載ブログの2回目です。このところ「安倍一強」にほころびが出てきています。

自衛隊制服組トップの統合幕僚長が憲法改正について記者会見で言及するなどというのは、シビリアンコントロール(文民統制)の観点から大きな問題です。昔の自民党だったらバッサリと幕僚長の首を切ったことでしょう。安倍政権もタガが緩みつつあります。田母神閣下もいまの政権だったら首にならなかったことでしょう。

さて、そうはいっても「安倍一強」がこんなに長く続いてきた理由について考察することには意味があると思いますので、「安倍一強の研究」の連載を続けます。

安倍総理が、前回の「(1)対自民党で安倍一強の理由」に引き続き、(2)対政府(行政府)で強大な権力をふるうことができる理由、および、(3)対国会(立法府)でやりたい放題できる理由、について書きました。

 

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2. 対政府(行政府)で安倍一強の5つの理由

1)橋本行革以来の官邸機能の強化や内閣府設置のおかげで、首相の権限とリソースは格段に強化された。さらに安倍政権が設置した国家安全保障会議(NSC)の設置も、首相の権限を強化した。グローバル化や技術進歩の結果として複数の省庁のカベをまたぐ案件が増え、省庁間の調整や裁定を行う内閣官房と内閣府の重要性が増し、そのことが首相への権力集中を加速している。【官邸機能の強化】

2)公務員制度改革によって、官邸が各省庁の幹部公務員人事を掌握するようになった。人事権が官邸にあるため、各省の幹部も「官邸の意向」を重視するようになった。首相への忖度の度合いが著しくなったのも、公務員人事の官邸一元化の影響が大きい。【幹部公務員の人事権掌握による霞が関支配】

3)霞が関官僚の民主党政権への忌避感・嫌悪感はいまだに強い。民主党政権の後の安倍政権は、霞が関官僚にとっては居心地が良い。基本的に自民党議員は官僚と相互依存の関係にある。安倍政権は民主党政権のように官僚機構に敵対的な態度はとらない。【民主党政権への官僚の嫌悪感とその反動としての安倍政権への官僚の忠誠】

4) 安倍総理は、歳出削減や天下り問題等、官僚が嫌がる行革を避けている。世論がよほど騒がない限りは、天下りにも寛容だった。安倍政権下で天下りは大幅に復活している。文科省の天下り問題は、世論が騒いだのでやむなく対応した程度のこと。安倍総理の「官僚と戦わない姿勢」は、おおむね霞が関に好意的に受け入れられてきた。【霞が関と戦わない】

5) 安倍政権は霞が関の中でも特に経済産業省と警察庁と良好な関係にある。安倍総理の首席秘書官(政務)は経産省キャリア官僚の今井秘書官であり、経産省人脈が外交にまで手を出し、財界寄りの政策を担っている。内閣情報官等の官邸内の主要ポストは腹心の警察官僚で固め、経産省と警察庁の情報に強い2つの官庁の情報ネットワークを駆使して政権運営にあたっている。【経産省、警察庁を軸に官僚機構と強固な連携】

 

3.対国会(立法府)で安倍一強の5つの理由

1) 日本維新の党、日本のこころ等の安倍政権寄りの「翼賛政党」もしくは「衛星政党」を上手に活用し、野党を分断することに成功している。自民党以上に右寄りの日本維新や日本のこころは、政府予算案に賛成し、客観的に見てあきらかに「与党」と言える。しかし、国会運営上はこの政権すり寄り2党が「野党」のカテゴリーに入っていることが、自民党の国会運営をスムーズにしている。野党が一致団結して反対しなければ、マスコミ「強行採決」とは言いにくい。【翼賛政党の活用による野党分断】

2) 従来の国会慣行では、与党は早めに審議を終わらせることを希望し、与党議員の質疑時間は短めに設定し、野党議員の質疑時間は議席数の比率よりもだいぶ長めに設定してきた。いわば野党へのアファーマティブ・アクション(弱者優遇策)として、野党議員の質疑時間は長くしてきた。しかし、日本維新や日本のこころのような「翼賛政党」が、野党(少数派)のためのアファーマティブ・アクションに乗っかり、カッコつきの「野党」としての有利な立場を使いながら、「与党」と同じ主張を繰り返している。これは、従来の議会運営の慣行では、想定されていなかった事態である。そのことが自民党に有利な国会運営につながっている。【野党に有利な国会慣行を「翼賛政党」が悪用して、安倍政権を利する構図】

3) 衆参の両方で3分の2以上の議席を連立与党が占めている現状では、与党のやりたい放題の国会運営を止める方法はほとんどない。小選挙区制のマジックのおかげで、選挙における得票率よりも、国会における議席占有率は大幅に大きくなる。2014年総選挙では、自民党候補の小選挙区での絶対得票率(有権者数に占める得票率)は約25%だが、自民党の衆議院の議席占有率は約61%となった。民意を過大に反映した議席数であるにも関わらず、議席数の差が国会運営の強引さにつながっている。【連立与党の議席占有率の高さ】

4) これまでは自民党の国会対策委員長の存在感が大きく、政府(官邸)はあまり国会運営には口出ししなかった。しかし、自民党の衆参の国対委員長に小物が配置されることが続き、官邸が与党の国会運営の自律性を尊重することが少なくなった。同時に国会対策畑出身の菅官房長官が政府の中枢にいるため、官邸が国会運営にかなり口出しできる体制になっている。【国会運営における自民党国対の存在感の薄さ】

5) 連立与党のパートナーの公明党が、どんな法案を出しても反対しなくなった。安保法制や共謀罪など、従来は公明党が嫌う右派的な法案が出てきても、公明党が反対の声をあげなくなった。安倍総理のやりたい放題にストップをかけられる立場の公明党がおとなしいことも、安倍一強の背景にある。【連立与党の公明党の存在感の薄さ】

また長くなったので、今日はこれまでとして、次回(3)では「対国民(選挙と世論)で安倍一強が続く8つの理由」を書きます。