安倍一強の分析と民進党改造計画(1)

最近出たばかりの話題の本「自民党-『一強』の実像」(中北浩爾教授:中公新書、2017年)を読みました。中北先生には「自民党政治の変容」という著書もあります。私も政治の世界で12年間生きてきて、自民党のこともつぶさに観察してきたので、「自民党政治」はよく知っているテーマです。

中北教授の本の中身は、私にとって新しい情報はほとんどなく、事実関係が正確なこともよくわかります。しかし、「こういうふうに整理したらスッキリするのか」とか、「こういう切り口で抽象化すると関係がよくわかるのか」とか、そういう新たな発見のある本です。幾何学の試験問題で適切な場所に補助線をスッと引くとあざやかに答えが出てくるような、そんな感覚の本です。いまの「安倍政治」や「自民党政治」を知るにはお薦めの本です。

さらに一年前に出た本ですが、牧原出教授(東京大学)の「『安倍一強』の謎」(朝日新書、2016年)も同じテーマを扱っている良書です。こちらの本は民進党関係者こそ読むべき本です。どうやって安倍一強に立ち向かい、安倍政権後の政治を担うのかを考える上で参考になる本です。

【参考文献】

(1)  中北浩爾、「自民党-『一強』の実像」、中公新書、2017

(2)  牧原出、「『安倍一強』の謎」、朝日新書、2016

さて、この2冊の本を参考にしながら、自分自身の経験も踏まえ、「安倍一強」の分析を行い、その上で民進党が政権政党になるための処方箋を考えてみました。長いブログになりそうなので、複数回に分けます。まず「安倍一強の分析」を行い、最後に「民進党が政権政党になるための処方箋」を考えます。

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安倍政権が「一強」の理由を次の4つの側面に分けて考えます:(1)対自民党、(2)対政府(行政府)、(3)対国会(立法府)、(4)対国民(選挙、世論)。
最初のブログでは、安倍一強の理由のうち、自民党内で一強の理由を考えます。

 

1.対自民党で安倍一強の8つの理由

1)政治資金規正法の強化、さらに長引く低成長による利権縮小により、議員個人の資金集めがむずかしくなった。一方、政党助成金の導入により、党執行部に資金が集中し、党執行部(総裁、幹事長等)の資金配分の権限が強まった。同時に派閥の資金力は低下し、党から受け取る交付金の重要性が増した。党の総裁の政治資金配分権限の強化が、安倍一強を支える一因になっている。【政治資金配分権の集中】

2) 小選挙区制の導入により、党の公認権が以前よりも重要になり、公認権を持つ総裁の力が強まった。中選挙区制の時代のように無所属で立候補して、当選してから自民党に入党する、というパターンは激減した。なお、無所属(あるいは民主党)で当選して自民党に入党するというパターンは、例外的に二階グループのみで生き残っている。二階グループは古い自民党政治の伝統を守る稀な存在であり、「最後の本物の派閥」と言えるだろう。【公認権の重み】

3)中選挙区制のころは自民党候補同士でつぶし合う選挙であったため、党の支援はほとんどなく、派閥の支援こそが重要であった。中選挙区制度が派閥政治を生んだ。中選挙区制の廃止、政党助成金の導入により、派閥の実質的な有効性はほとんどなくなった。総裁選でも派閥の枠組みは、あまり意味をなさなくなってきた。しかし、いまだに自民党内で派閥政治が横行しているように見えるのは、時代の変化を理解していない政治家と政治部記者が多いためである。派閥は「仲良しグループ化」が進行し、派閥の戦闘力は低下している。また、安倍一強が続いたために当選12回の若手自民党議員は、総裁選を戦った経験がなく、権力闘争の実戦経験がなく、安倍総理に立ち向かう戦闘力を磨く場もなかった。派閥の弱体化、若手議員の実戦経験不足が、安倍一強を止められなくしている。【派閥の弱体化】

4) 総理・総裁への人事権の集中。特に閣僚人事に関する派閥推薦を受け付けなくなり、総理に媚びて大臣ポストを狙う傾向を生んだ。人事権を武器にして、ライバルを党四役や閣内に取り込んだり、ライバルを干したりして、安倍一強を維持してきた。【人事権の掌握】

5)民主党政権化での下野の経験が、自民党内の団結力の源泉になっている。「党がバラバラになれば、政権の座を失うかもしれない」という恐怖感が、安倍一強を良しとする党内の風潮を生み、党内批判がやりにくい空気ができた。【党内批判がしにくい雰囲気】

6)自民党は下野した時に、得意技の利益誘導(公共事業や補助金)の手段を失い、右バネ(イデオロギー的な主張:憲法改正、愛国教育や道徳教育、歴史問題等)による低コストの支持獲得戦略を活用した。旧社会党を内部に抱える民主党のリベラルなイメージに対抗するため、自民党は右傾化路線を意識的に選択した。その結果、自民党内のリベラル派(ハト派)は自己主張しにくくなり、右派の安倍総理に対して声をあげにくくなり、そのことも安倍一強を支えている。【リベラル派・ハト派の衰退】

7)小泉総理の郵政民営化や道路公団改革のように党内に敵をつくる改革を、安倍総理は意図的に避けてきた。農協改革も農協内の一部と手を組み、妥協的な内容に終わった。消費税増税や補助金カットのような国民負担を増やす(痛みをともなう)改革には取り組まない。敵をつくる改革を避け、摩擦をできる限り避ける。財界や業界団体との良好な関係を維持し、既得権に切り込まない。【党内に敵をつくる政策を回避】

8) 第一次安倍政権の失敗後、安倍総理は若手議員や選挙に弱い議員の選挙応援を徹底して行い、党内の味方を増やしてきた。元総理が後援会のイベントに来てくれたら、若い議員は恩義を感じて味方になる。二度目の総理就任までの間にかなり地道に全国を歩いて支持してくれる議員を増やしていった。党員投票では石破氏に負けたが、議員投票では石破に勝てたのは、地道な全国行脚の結果であるとも言える。【地道な党内支持基盤固め】

長くなりましたので、今日はここまでで終了します。次号は「対政府(行政府)で安倍一強の5つの理由」です。