「リベラル・保守」の連合政党へ

東京と福岡で行われた衆議院補欠選挙は、どちらも民進党が負けました。残念ですが、ここで謙虚に敗因を分析し、来るべき衆議院総選挙に向けて政策と体制を立て直さなくてはいけません。

毎日新聞の伊藤智永編集委員が「私たちに選ぶべき『野党』があるのか」という興味深い文章を書いています。新潟県知事選では、自主投票という決定をしておきながら、党首が応援に現地入りするという、ちぐはぐな対応をしました。そういう意味では「選ぶべき野党があるのか」という問いかけには、真剣に答えを出さなくてはいけないと思います。

*伊藤智永「私たちに選ぶべき『野党』はあるのか」サンデー毎日 2016年10月30日号

伊藤編集委員の指摘を勝手に要約しつつ、一部に言葉を足すと以下のようになります。

蓮舫代表は「バリバリ保守」を自称しているものの、主張しているのは「人への投資」という人間重視の分配政策であり、「大きな政府」のリベラル路線である。

野田幹事長も保守を自称。しかし、増税による財政再建、厚い中間層の再生、セーフティネットの構築が持論であり、政策の中身はリベラルである。
(*山内補足説明:そもそも欧州のリベラル政党は、増税して再分配を主張することが多い。リベラル派が増税に反対するのは、日本特有のユニークな現象である。)

代表選に立候補した玉木雄一郎氏は「リベラル保守」を自称。教育無償化や子育て支援強化のための「子ども国債」を主張するなど、「大きな政府」志向のリベラルな政策を掲げている。

前原元代表も「現実保守」を訴えるが、格差是正を強調しており、「社会民主主義と言われてもいい」と発言。慶応大学の井出英策教授の主張する増税による再分配政策を信奉し、以前の前原氏と比較するとリベラルな政策を訴えるようになっている。

細野代表代行も「角栄型保守」を志向するが、子育て、保育、教育などの「人生前半の社会保障」への重点配分を訴えている。これも「大きな政府」志向のリベラルな政策である。

実際のところ民進党の主要メンバーの訴える政策は「大きな政府」志向のリベラル路線である。それなのにほぼ全員が「保守」を自称している。

ところで、「リベラル」には異なる2つの意味がある。1つは、個人が持てる能力を発揮することを重視する「自由主義」の意味。政府の役割は少ない「小さな政府」志向に通じる。

もう1つの「リベラル」は、人が人らしく生きる権利を大切にする「社会民主主義」の意味であり、「大きな政府」志向になる。

このように「リベラル」は正反対の意味になり得るのでややこしい。「リベラル」の範囲も広い。現代日本の「リベラル」も、戦後民主主義の理念をけん引した進歩派と、政策上の社会民主主義路線の両方の意味が重なっており、まぎらわしい。

宏池会の創設者の池田勇人首相は、リベラルな政治家だったが、社民的発想とほど遠く、「小さな政府」志向であった。大平正芳氏、宮澤喜一氏も、自由主義リベラルであり、社民路線ではない。

他方、田中角栄氏や竹下登氏といった経世会は、成長の果実を全国にばらまく「大きな政府」路線である。戦後自民党政権の大半は「保守」と呼ばれていたが、政策的には社会民主主義そのものであり、「リベラル」で「大きな政府」志向だった。

ことほど左様に日本では「リベラル」や「保守」という言葉がまぎらわしい使われ方をしてきた。なかなかスッキリしない。

この際だから民進党は自己像を直視し、ありのまま有権者に示さなければ、選挙の選択肢にはなりえない。甘ったれた「保守」ブランドと決別すべきである。

先般の民進党代表選では、蓮舫氏が「バリバリ保守」、前原氏が「現実保守」、玉木氏が「リベラル保守」を自称していました。表面的には、民進党のリベラル派はすっかり影が薄くなり、民進党の保守化が進んでいるように見えました。

しかし、主張している政策の中身を見ていくと、「お前たち実はリベラルじゃないか!」という伊藤氏の指摘はその通りだと思います。正直にリベラル色をある程度打ち出した方が、右傾化する安倍自民党への対抗軸になるのかもしれません。

他方、自民党が右傾化し過ぎているので、中道右派(穏健な右派)の人たちの受け皿がありません。中道右派(穏健な右派、ハト派の保守)も民進党は取り込む必要があるし、ある程度の幅のある政党でないと政権は担えません。

そこで私がお薦めするのは「リベラル・保守」です。読み方は「りべらる どっと ほしゅ」でも「りべらる ぷらす ほしゅ」でも何でもいいです。穏健な保守(ハト派の保守)とリベラル(社会民主主義)の連合政党という意味です。

玉木氏の「リベラル保守」とはちょっと違います。玉木氏の「リベラル保守」は、「リベラルな色合いの保守」という感じだと思います。「リベラル保守」という名前の下に集まるひとつのグループのことだと思います。

しかし、私の主張する「リベラル・保守」というのは、ひとつのグループの名称ではありません。党内のリベラル(社会民主主義)と穏健保守(ハト派の保守)の2つの勢力の連合体(同盟)です。政権につくとしたら、リベラル系民進党と穏健保守民進党の事実上の連立政権です。

実のところ55年体制の頃の自民党だって「都市自民党」と「農村自民党」の連立政権、あるいは「小さな政府」自民党と「大きな政府」自民党の連立政権のようなものでした。ある外国の政治学者は、「55年体制の自民党政権は、中小の派閥を政党と見なして、4~5党から成る連立政権として分析するとわかりやすい」というようなことを言っていました(うろ覚えの記憶なので、出典は不明です。すみません。)。

私のいう「リベラル・保守」政党の内部の2つのグループは完全に融合する必要はありません。しかし、党内の2つのグループが協力して政権を担う必要があります。代表選などでは2つのグループで勢力争いしてもよいのですが、代表選が終わった後には一致団結しなくてはいけません。

そのときに最低限のコンセンサスは必要です。コンセンサスとは、(1)個人の自由や人権を尊重する政治的リベラル、(2)現実的な国際協調路線の外交安保政策と、(3)中負担・中福祉で小さ過ぎず大き過ぎない「ちょうどよいサイズの政府」、いまは「小さすぎる政府」であるという認識を共有、(4)誰も排除しない安心の社会保障政策、(5)環境保全や気候変動対策の重視、という程度で十分だと思います。

民進党は「保守」一色になってはいけません。それでは保守の本家本元の自民党に勝てるわけがありません。他方、左に寄り過ぎても穏健保守層が逃げるので、極端な左寄りのスタンスもとるべきではありません。ちょうどまん中の「リベラル・保守」の政党、中道右派(穏健保守)と中道左派(社会民主主義、リベラル)の同盟による連合政党というスタンスを打ち出していくとよいのではないかと思います。「リベラル」の要素を排除し過ぎてはいけないと思います。「リベラル」と「穏健保守」を車の両輪とする必要があります。