国会の質問の「事前通告」という仕組み

国会の各委員会で質問をするにあたっては「事前通告」という仕組みがあります。規則で決まっているというより、スムーズに審議を行うための慣例といえるかもしれません。なれ合いでも談合でもなく、事前に質問内容を伝えておかないと、細かい数値や法律の条文を確認できないので、必要な手続きといえます。

与野党の申し合わせで決まっているのは「なるべく48時間前までには事前通告しましょう」ということです。実際には委員会の開催日時が直前に確定することも多いので、常識的には「遅くとも委員会の前日夕方くらいまでには通告しましょう」というのが与野党のコンセンサスという雰囲気です。

事前通告は、質問事項を箇条書きで記して担当省庁にファックス送信するというのも、一応は許容範囲です。しかし、通常は担当省庁の国会連絡室に連絡し、担当課の職員を議員会館の自室に呼んで、口頭で事前通告するケースが大半だと思います。

私も基本的には担当省庁の担当職員を自室に呼んで事前通告します。一昨日(2月25日)予算委員会分科会というところで法務省と外務省に対して質問しました。委員会が今週月曜日だったので、「前日の夕方まで」が常識的な許容範囲だとすると、先週金曜日の夕方までに通告する必要がありました。しかし、金曜日は地元福岡で用事があったので、木曜日の午後に事前通告を済ませました。委員会開催日の5日前に事前通告する国会議員は珍しいと思います。

霞が関の役所の深夜残業が多い理由のひとつは、国会の委員会質問への対応です。委員会開催日の前日は、役所で国会対応にあたる職員は「国会待機」と呼ばれる役所内待機を強いられます。質問の事前通告が入ると、答弁を作成しければならないからです。

国会質疑の答弁作りは、次のようなプロセスを経ることになります。

  1. 各省庁の国会連絡室に議員から質問する旨の連絡が入る。
  2. 国会連絡室はその質問に関連する部署に連絡する。
  3. 役所の担当課の担当者と国会連絡室の担当者がチームで議員の事務所に出向いて、質問内容の事前通告を受ける。通称「質問取りレク」と呼ばれる。
  4. 質問取りレクでは、質問内容やだれに答弁してほしいのかを議員に確認する。その際に役所は、なるべく大臣ではなく、政府参考人(局長や審議官)の答弁で勘弁してもらえるように議員に頼む。役所は、危なっかしい素人大臣より、政府参考人の答弁を好む。
  5. 質問への答えを担当課でペーパーにする。担当局内で検討した上で、大臣官房や関係部署と調整し、最終的には大臣官房で取りまとめる。深夜におよぶ残業になるのが一般的。
  6. 大臣が答弁する場合には大臣に説明する。大臣への説明は、だいたい委員会当日の早朝になる。したがって、質疑に関係する役人は、深夜残業と早朝出勤のセットになりがち。

以上のようなプロセスが委員会開催の前日から当日早朝までに入ります。したがって、質問の事前通告が遅くなると、役所の残業がより遅くなります。霞が関の公務員の皆さんの負担を考えると、質問の事前通告は早ければ早いほどよいということになります。

今回は5日前に事前通告できたのでよかったです。しかし、5日前に事前通告するにはテクニックがあります。まず委員会開催日程が確定しないうちから、質問を早めに用意しておく必要があります。いつでも質問できるようにスタンバイ状態を保っておくことが重要です。日頃の心がけが大切ということです。

次に国対(国会対策委員会)の動向を注視して(あるいは予測して)、委員会がセットされるや否や国会連絡室に連絡する必要があります。私の場合は、国対畑が長いので、予算委員会の開催スケジュールはだいたい相場観が働きます。「たぶん週明けは予算委員会分科会だろうな」と読んでいたので、フライング気味に国会連絡室に連絡しました。おそらく誰よりも早い事前通告だと思います。

ご参考までに、役所の担当者を呼んで行う「質問取りレク」用につくった質問要旨のメモの内容を転載させていただきます。なお、今回は時間切れで以下のメモの一部は質問できませんでした。通常、質問要旨メモは、口頭説明で補足します。さらに役所の担当者から「質問の明確化のための質問」を受け、答えます。それで事前通告は終わりです。

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予算委員会分科会(法務省、外務省)の質問メモ(2020年2月25日)

【法務省】

1.日本の難民認定数の少なさについて(法務省)

Q.たとえばG7の近年の最近の難民認定数は年間何人か?

Q.他の先進国に比べて日本の難民認定数の少なさはきわだっているが、それについての法務大臣のご所見を問う。

 

2.送還忌避者の実態について(法務省)

Q.送還忌避者の定義と実態(人数)にいて尋ねる。

Q.送還忌避者には難民申請者を含めるのか?

Q.専門分科会(第6回、1月28日)の資料に「送還の回避を目的とする濫用・誤用的な難民認定申請に対処するための措置」とある。濫用者がいることは問題だが、濫用者を見分ける措置は慎重に行う必要がある。濫用者でない者まで送還すれば、人権や生命にかかわる問題であり、国際社会における日本の評価を下げる恐れもある。法務大臣のご所見を問う。

Q.収容のあり方についても問題があるのではないか。収容期間の上限がないのは問題ではないか。司法による審査もなく、出入国在留管理庁の判断だけで収容を決められるのも問題があるのではないか。法務大臣のご所見を伺う。

Q.収容施設における拒食事案(ハンガーストライキ)が広がっている。背景には仮放免許可がなかなか出ないこと、あるいは、仮放免が出てもわずか2週間程度であることが理由にあげられる。

 

3.空港において難民申請を行った者の住居の確保等について

Q.日本の空港において難民としての庇護を求めた者の住居の確保等については、2014年から市民団体(NPO法人なんみんフォーラム等)が法務省と連携して支援している。件数は少ないながらも法務省と日弁連や「なんみんフォーラム」の連携はうまく機能しているように思われる。官民の連携で難民申請者の人権を守る取り組みについて法務大臣のご所見を伺う。

 

【外務省】

1.無国籍状態の難民の認定について(外務省)

Q.今年1月29日の東京高裁で無国籍の男性の難民不認定取り消しを求めた訴訟で国が敗訴した。無国籍者の保護について日本政府の考え方を問う。

Q.無国籍者の地位に関する条約を批准していないことに対し、市民団体の一部から批判の声がある。批准の予定はないのか? 批准できない理由は何か?

 

3.難民申請者への保護費の支給について(外務省)

Q.難民申請者のうち、経済的に困窮している者に対しては外務省から保護費が支給される仕組みがある。しかし、2010年から支給対象が、1回目の難民認定申請を行っている者や、それに対する審査請求を行っている者に限定されている。また、1回目の不認定に対する取り消し訴訟を行っている者に関しては、再度の難民認定申請を行っていることが前提とされている。これらの制限をなくし、取り消し訴訟中の者は、再申請の有無に関わらず、保護費の支給対象とすべきではないか。また、2回目の難民認定申請を行っている者に対しても、支給対象とするのが妥当と思われるが、政府の見解を問う。

 

4.女性差別撤廃条約の選択議定書の批准について

Q.選択議定書の締結についての政府の方針を伺う。

Q.選択議定書の締結を阻害している要因について伺う。