ゴミ袋の1袋あたり処理費408円

最近出た「入門 環境経済学(新版)」という本によると、ゴミ袋1枚あたりのゴミ処理費用はなんと408円もかかるそうです。驚きました。そんなにかかるとは思っていませんでした。

厚生労働省によると2020年度の全国のゴミ処理事業経費は、2兆1290億円だそうです。同年度のゴミ総排出量は4167万トンなので、1トンあたりの全国平均のゴミ処理経費は約5万1000円(キロ当たり51円)となります。40リットル入りのゴミ袋1枚に約8キロのゴミが入るそうです。以上の数値から計算すると、ゴミ袋1枚あたり408円の処理費用ということになるようです。

ゴミ袋を有料化している地方自治体は多いですが、それでもかなり安めの価格設定ということがわかります。ゴミ処理コストを100%回収しようと思ったらゴミ袋1枚当たり408円も手数料かかるわけです。そうなったら多くの家庭は必死になってゴミ減量化を進めることでしょう。生ごみのたい肥化を進めたり、リサイクルを徹底したり、田舎の農家などでは庭や畑の片隅でゴミを燃やすようになるかもしれません。家庭ゴミの不法投棄も増えるかもしれません。

環境経済学の考え方に従えば、社会的利益を最大化するためには、ゴミ処理手数料従量制を採用することになります。ゴミの排出量に比例して、家計からゴミ処理費用を手数料として徴収する制度です。

ゴミ処理の限界費用に等しい水準に手数料を設定するのが、理論的には正しいやり方です。しかし、ゴミ袋1枚が408円もしたら家計の負担が重すぎるので、行政で補助してそれよりも安い価格にするケースが多いことでしょう。また高すぎると不法投棄を招くリスクもあります。

逆に環境経済学的にもっとも望ましくないのは、ゴミ処理手数料を無料にすることです。もっとも「無料」といっても住民税などの負担でゴミ処理費用をまかなっているわけです。しかし、このやり方だと、ゴミを出すときは無料なので、ゴミを減らすインセンティブがありません。どれだけゴミを出してもタダだと思えば、ゴミの分別やリサイクルは進みません。一部の心ある人だけが、ゴミの分別やリサイクルをやるという状況を招きます。

合理的に考えれば、ゴミ処理費用は手数料のかたちで家計から徴収し、現在地方自治体が負担しているごみ処理費用をまかない、浮いたお金で住民税を減税したり、環境対策に予算を振り向けることが望ましい、ということになります。

しかし、環境経済学的に合理的な政策が採用されるとは限りません。私が住んでいる地方自治体ではゴミ処理代は無料です。合理的ではありませんが、不満を持っている市民はほとんどいないと思います。住民が率先して「ゴミ処理手数料を有料化しろ!」と声をあげたケースは聞いたことがありません。

将来の世代のことを考えれば、大量生産・大量消費・大量廃棄のライフスタイルをやめて、リサイクルやリユースを促進し、生ごみのたい肥化を進め、ゴミを大幅に減らすべきです。そのためのインセンティブとして、ゴミ処理手数料の導入や大幅値上げは、とてもよい政策です。

しかし、よいと思っているのは、環境経済学を学んだ人だけかもしれません。小中学校の公民や社会科では、金融教育やプログラミング教育なんかよりも、環境経済学を教えるべきだと思います。中公新書の「入門 環境経済学(新版)」はお薦めの本です。

*参考文献:有村俊秀、日引聡 2023年「入門 環境経済学(新版)」 中公新書