過去20年にわたって国際社会はアフガニスタンを援助してきました。しかし、タリバン政権の成立によって「膨大な援助が水の泡」になったと書くメディアがあります。私は違うと思います。あまりにも短絡的な評価だと思います。
確かにアフガニスタン政府軍の強化のための米国の軍事援助はムダになったかもしれません。残念ながら平和構築の一環として実施された武装解除のための援助も役に立たなかったと言えるかもしれません。
しかし、過去20年にわたって国際社会が実施してきた教育援助(特に女子教育)や農業援助、インフラ整備などはまったくムダになったわけではありません。タリバン政権になっても活用されるインフラはあるでしょう。タリバン政権下でも技術移転された農業技術は飢餓を防ぐのに役立つでしょう。
過去20年の間に行われた女子教育は、教育を受けた女性たちが生き続けている限り、その効果が持続します。これからタリバン政権が女子教育を禁止したとしても、過去20年の女子教育の成果が消えてなくなるわけではありません。
それにタリバン政権が未来永劫続くとは限りません。再びタリバン政権が崩壊した時には、過去20年に教育を受けた女性たちが核となり種となって女子教育を復活させるかもしれません。将来に向けた布石になる可能性があります。
たとえば、大正デモクラシー期の民主的な運動や価値観が、第二次大戦後の民主主義の復活の土壌になったと言えるかもしれません。米国から押し付けられたから民主主義が定着したというより、もともと民主主義を生む土壌が残っていたところに、戦後の民主化政策が注入されたと言えるかもしれません。
未来の「タリバン政権後」のことを考えれば、過去20年の女子教育や人権教育、平和教育の成果が活きてくる可能性は十分あります。タリバン政権下でも隠れて女子教育を行う人たちも出てくるでしょう。あるいは、タリバン政権の支配が及ばない地域(パンジシール渓谷等)に行って女子教育を継続する人も出てくるかもしれません。
仮にこの先ずっとタリバン政権が続いて女子教育が禁止され続けるとしても、過去20年の女子教育は決してムダじゃなかったと思います。たとえとして適当かどうかわかりませんが、過去の20年の女子教育をムダと決めつけるのは、「どうせすぐ死んじゃうから、ターミナルケアなんて医療費のムダだ」と言うのと同じくらい間違いだと思います。アフガニスタンへの過去の援助がムダだったという意見を聞くと、終末期医療をムダと決めつける議論に対して抱くのと同じような嫌悪感を覚えます。
国際社会はタリバン政権に対して人権や平和を守るように呼びかけるとともに、医療支援や食糧支援等の人道的な援助は継続していかなくてはならないと思います。タリバン政権が国際社会と協調し、女性や子どもの人権を尊重するように促す努力も続けていく必要があります。アフガニスタンを見捨ててはいけません。