GIGAスクール 4,800億円のコスパ

政府が進めているGIGAスクール構想は、デジタル機器等のハード整備、ソフトウェアや通信環境整備にお金がかかります。投じられる教員の労力と時間もかなりのものです。それに子どもたちの貴重な学習時間をICT教育に費やすことになります。どれほどのコストがかかるかを冷静に考える必要があります。

国税の投入額は明確で、現段階では以下の通りです。

令和元年度補正予算:       2,318億円
令和2年度第1次補正予算:2,292億円
令和2年度第3次補正予算:209億円
【合計4,819億円】

他方、現段階ではGIGAスクール関係の地方自治体の予算の全体像は把握できません。そこで、文部科学省作成の説明資料に出てくる架空の「S市」の事例を見てみます。S市は小中学校が13校あって、児童生徒数が2,800人で、令和2年度予算として約1億100万円を想定しています。S市の事業費内訳は、国の補助が約6,900万円、市の支出が約3,200万円で見積もられています。

*ちなみに福岡3区内で比較すると、S市の児童生徒数は糸島市の半分くらいです。文科省の想定に基づいて大雑把にいえば、糸島市でGIGAスクール構想に約2億円かかる計算になっています。

大雑把にいえば、国費の半分の地方自治体負担が想定されています。もっとも地方自治体ではなく、文部科学省の見積もりなので、地方負担を少なめに見積もっている可能性もあります。国費が約4,800億円投じられる一方で、地方自治体の負担で2,400億円ほどがGIGAスクール構想に投じられる計算になります。したがって、国と地方を合わせて約7,200億円の税金がGIGAスクール構想に費やされる見込みです。

ちなみに、私の試算では4,430億円あれば、全国の小中学校の1年分の学校給食費を無償化できます。教育のICT化の7,200億円よりも給食無償化の方が優先度が高い気がします。

政府は小中学校での「1人1台端末」の方針を掲げており、1人あたり上限45,000円の国の助成が受けられます。デジタル端末は一回買えば終わりではありません。私は5年以上前に買ったスマホを今でも使っていて、周囲から変人扱いされています。スマホやタブレット機器は2~3年で買い替える人が多いのではないでしょうか。デジタル機器はがんばって長く使っても4~5年で陳腐化するでしょう。小さな子どもがデジタル機器を扱う場合、故障や破損も多くなり、早めに更新しなくてはいけないかもしれません。

おそらくデジタル機器の更新費用だけでも全国で毎年1千億円くらいかかると思います。それに加えて教育のICT化をサポートするために外部人材の活用の予算も計上されています。教育のために必要なソフトの費用、通信環境の整備に加えて日々の通信費もかかります。

うがった見方をすると、GIGAスクールに基づき経済産業省が前のめりに進める「未来の教室」事業は、学校教育の市場化(産業化)であり、21世紀の成熟経済における「新しい公共事業」あるいは「新しい既得権益」にほかなりません。

しかし、以前にブログで書いたように、教育のICT化は教育効果が高いとはいえません。費用対効果(コストパフォーマンス)を考えるにあたっては、「当該事業は〇〇円を投じて△△の効果があるから正当化される」という説明が必要です。効果があることが新規予算獲得の大前提です。しかし、教育のICT化にあたっては、必要なコストは見込めますが、期待される効果は不明です。

GIGAスクール構想は、エビデンスに基づいて立案されたわけではなく、ときの政権が開いた有識者会議のフワッとした議論で出てきて、経産官僚が絵を描いた、机上のプランです。したがって、費用対効果の議論はできません。高コストなのは確実ですが、効果のほどはあやしい。GIGAスクール構想は滑り出しから不幸です。税の使い道としても、教育効果の観点からも、問題が多いと思います。