これまで大学教育の危機や安倍政権の教育再生の問題点について何度も書いてきましたが、あらためて深刻な事態を浮き彫りにした記事を見てがくぜんとしました。朝日新聞の2018年5月20日朝刊の「大学教員 半数は非常勤」という記事によれば;
全国の大学教員の約半数は非常勤
常勤の専任教員も約4分の1が任期付き雇用(「特任」や「特命」など)
任期なしの専任教員は約36.9%
これはかなり深刻な事態です。安定した雇用で教育や研究に従事している大学教員がだいたい3人に1人というのは、大学教育の危機です。
非常勤の不安定な雇用の教員は、自分の研究に集中することも難しいでしょうし、研究休暇(サバティカルリーブ)ももらえないことでしょう。大学教員という仕事柄、自分の専門分野の最新の研究動向を知ることも必要でしょうし、自ら論文を書いて自己研鑽をしていないと、大学レベルの教育はできないと思います。しかし、非常勤の採用だと、自分の専門分野に本腰を入れて研究する余裕もなかなかないと思います。
また、非常勤講師をいくつも掛け持ちしても、食べていくのは大変です。私も浪人中に北海道大学公共政策大学院で非常勤講師をさせていただきましたが、時給が安くておどろきました。講義の時間数に応じた時給をもらうのですが、実際には講義の準備や宿題の採点にかなり時間がかかります。講義の時間よりも準備の時間の方が長いくらいでした。しかし、そういう講義時間以外の時間は無償労働になります。大学の非常勤講師というのは、たいへんな仕事の割に金銭的にはまったく割にあいません。
せっかく苦労して博士号を取得しても、正規の教員になれる見込みが少ないとなれば、博士号取得を目指す人は減ることでしょう。優秀な人材が、博士課程を目指さない、大学教員の職を目指さない状況を招きかねません。優秀な人材が大学教員になれないと、大学教育の質は低下して当然です。大学教育の質の向上を目指すなら、大学教員の質を向上させる必要があります。
大学教育の充実のためには、大学教員の待遇改善や非常勤講師の正規化が必要だと思います。それには予算の拡充が不可欠ですが、知識経済化がすすむ中で必要不可欠の投資だと思います。経済成長戦略の一環としての大学教育への投資を強化すべきだと思います。