むかし使っていた備品や資料が必要になったので、実家にあずけておいた段ボール箱をひらいていたら、学生時代のノートが出てきました。なつかしくなって読み返してみたら、国際基督教大学(ICU)の学生時代のことを思い出しました。
学生時代の私は、アジアやアフリカの貧困問題について学びたいと思い、開発経済学の中内恒夫教授に卒業論文の指導をお願いしました。講義ノートを読み返してみると、マルクス経済学からケインズ学派、新古典派まで広く、かつ、わかりやすく説明してあり、名講義だったことに今になって気づきました。当時はその価値に気づきませんでした。もったいないことをしました。
それでも開発経済学の教科書に親しんでいたおかげで、アベノミクスの「トリクルダウン理論」がインチキであることを知識として知っていました。開発経済学や国際開発の分野では、「お金持ちが先に豊かになれば、その効果がしたたり落ちて(トリクルダウン)、中間層や貧困層も豊かになる」という理屈は、20年以上前にすでに否定されていました。「お金持ちがより豊かになっても、貧困はなくならない」という現象は発展途上国で顕著でした。そのことを知っていて無視したのか、単に無知だったのか、安倍政権ではトリクルダウンを期待した経済政策を採用してきました。その結果が、格差拡大や子どもの貧困です。
中内先生の講義では、経済学の話だけではなく、宗教や文化のことまで話題になることも多く、脱線の方が心に残っていることもあります。中内先生はクリスチャンで学生時代は一橋大学キリスト教学生会のメンバーだったそうです。この会のOBには、大平正芳首相や城山三郎氏もいたそうです。私にとって戦後の首相でもっとも尊敬できる首相は、大平正芳首相です。生き方について考えさせてくれる城山三郎氏の小説やエッセイも好きです。大学時代という多感な時期にキリスト教を学んだ人は、立派な人になる可能性が高いのかもしれません。中内先生も有意義な学生時代を過ごされたのでしょう。
経済学者の中内先生ですが、リベラルアーツ(教養教育)の重要性をたびたび指摘されていて、ノートにもそのことが書いていました。25年前の講義ノートですが、いま読み返してみると、人生経験を積んだ今の方がより深く理解できます。大学ではよい先生に恵まれ、幸せな大学生活を送ったのだと、いまになって再認識しました。学生時代にはその価値を十分に認識していなかったことが残念です。
その他に1年生の1学期にはりきって受けた「平和研究」の講義も心に残っています。安倍総理の「積極的平和主義」の欺瞞がよく理解できるのは、「平和研究」という講義で国際法の最上敏樹教授からヨハン・ガルトゥングの理論を学んだおかげです。44歳の中年のおじさんになっても、18歳か19歳の大学1年生の頃に学んだ知識をいかして、18歳の頃と同じ気持ちで「平和」について考え行動し続けていられるのは、衆議院議員という職業ならではです。衆議院議員として働かせていただいていることに感謝します。
たまたま平和で豊かな時代の日本に生まれて、学費や生活費の心配をしなくてもよい家庭に生まれ、充実した学生時代を送ることができました。しかし、いまの日本社会では、教育格差の拡大と所得格差の固定化が進んでいます。以前に比べて大学の授業料も高くなる一方で、平均的な世帯収入は減少して、子どもを大学に進学させるのは段々むずかしくなっています。
どんな家庭に生まれても、すべての子どもが適性と希望にあった質の高い教育を受けられる環境を整えることは、政治の責任です。親の所得格差が、子どもの教育格差に直結する社会は、不健全で生産性の低い社会です。人生のスタートラインにあたる子ども時代に教育機会の格差があるのは、フェアではありません。自らの学生時代をふり返り、あらためて教育機会の均等が大切だと思いました。
家庭の教育費負担の軽減、教育機会の均等、そして大学教育の質の向上をめざし、国の教育政策を良い方向にもって行きたいと思います。国対の仕事ばかりに関わっている場合ではなく、今後は教育政策の勉強も強化したいと思います。がんばります。