高校の講義メモ(2):国際協力は必要なのか?

高校での講義メモシリーズの第2弾です。この講義は「国際協力論」というタイトルで15名ほどの生徒が受講してくれます。この高校の選択授業はけっこう柔軟で、「部活で出席できない生徒」とか、「先生の個人指導が入って出席できない生徒」とか出るので、授業の定員がけっこう大雑把です。大学受験にも成績にも関係ない講義なのに、まじめに受講してくれる生徒がいるだけでもありがたいです。

講義の配布資料は以下のような感じです。

1.なぜ国際協力(国際援助)が必要なのか?

(1)日本政府の見解:①国際社会の平和と安定は国益、②日本のプレゼンスと
日本への信頼、③日本に有利な国際環境、④相互依存、⑤地球規模の課題
(2)私の考え:①公正で平和な国際社会、②すべての人に最低限の生活と権利
を保障すべき、③困ったときはお互いさま、④人類と地球への義務

2.発展途上国の現状
(1)世界人口の9人に1人(約8億人)が栄養不良
(2)サハラ以南アフリカでは4人に1人が栄養不良
(3)栄養不良が原因で亡くなる5歳未満の子どもは年間310万人
(4)発展途上国の子どもの3人に1人は発育不全
(5)トイレなどの基本的な衛生サービスにアクセスできない人口は25億人
(6)水資源にアクセスできない人口は8億人
(7)1日2米ドルという貧困ライン未満で暮らす人口は22億人
(8)世界中で難民が約2千万人、国内避難民が約4千万人

3.国際協力は役に立っているのか?
(1)貧困人口:1990年の19億人から 2015年の8億3,600億人へ 半減
(2)妊産婦の死亡者数は1990年以来、ほぼ半減
(3)教育、医療、貧困などほとんどの指標で1990年より2015年が改善
(4)中国やインド、ブラジル等の発展途上国の経済発展や自助努力による割合
も多いが、国際援助が果たした役割はけっして小さくない。

国際的な相互依存関係を考え、かつ、国際社会の安定が貿易立国の日本にとって利益である点を考えれば、国際協力(政府開発援助=ODA)は重要です。人道的にも道義的にも難民援助や被災者支援といった国際協力も重要です。

そして国際援助は、発展途上国の人々の暮らしを向上させるのに一定の役割を果たしてきました。もちろん途上国の教育や保健の水準が向上しつつあるのは、かなりの部分は途上国自身の自助努力によります。しかし、国際援助が、途上国の取り組みを大きく後押ししてきたのは間違いありません。

世論調査をすると、日本でもアメリカでも「政府は海外援助に予算を使い過ぎだ」という意見が多いそうです。しかし、アメリカのケースでは、「海外援助の予算を使い過ぎだ」と答えた人に「では、政府はどれくらいの金額の海外援助を行っていると思うか?」と質問すると、実際の予算額の5倍や10倍の金額が海外援助に使われていると誤解している人が大半だそうです。国際援助の予算額は、実態以上に大きいと誤解されがちです。

実際のところ、日本のODA実施額は少ないです。日本の一人当たりのODA供与額は先進国で最下位に近いです。日本のODA供与額は約92億ドルで世界5位です。人口と経済力で日本の半分くらいのイギリスのODAは、約194億ドルです。安倍総理が外遊のたびに大盤振る舞いしている印象がありますが、その金額のほとんどは融資(円借款)であり、純粋な援助額はきわめて限定されます。

ポイントとして;

1)国際援助はある程度役に立っている。貧困や教育、保健等で改善が見られる。

2)しかし、日本政府はあまり国際援助に熱心ではない。

3)財政が苦しくとも国際社会の平和と安定のために日本も応分の責任を果たすべき。

といった趣旨の話をしました。

高校生の皆さんが大人になって「ODAは大事だ」と思ってくれるとよいのですが。