円安で小さくなる日本経済

急激に進む円安のせいで日本経済の存在感がますます小さくなっています。米ドル建てでみたときの日本経済の縮小は見るも無残です。

民主党政権末期の2012年の対ドルレートは1ドル=80円くらいでした。2012年の米ドル建ての日本のGDPは約5.96兆ドルでした。

安倍政権下の2016年には1ドルが110円くらいになり、日本のGDPは4.93兆ドルでした。

そして2022年(今年)の円建てのGDPは550兆円程度と予想されています。1ドルが150円になったと仮定すると、約3.66兆ドルとなります。

十年前の2012年の日本のGDPが5.96兆ドルで、今年のGDPが3.66兆ドルというのは衝撃です。十年でGDPが半分近くになったということです。

世界は米ドルで動いています。米ドル建てでみた日本経済は小さくなり、日本人は貧しくなりました。米ドル建てで石油や食料を輸入しているので、物価高と生活苦は当然の結果です。

4年半ほど前(2018年4月18日)にブログで次のような文章を書きました。事態はさらに悪化しています。円安誘導の副作用は深刻です。かなりドラスティックな政策転換が必要です。


2018年4月18日付ブログ「アベノミクスはうまく行っているのか?【円安誘導】」再掲

安倍総理は「アベノミクスのおかげで名目GDPが50兆円増えた」という趣旨のことを選挙演説で言ってました。これはおおむね正しいです。しかし、名目GDPが増えたところで、実質賃金は上がっていません。円安誘導で物価が上がっているので、名目賃金が上がっても、実質賃金が下がっています。消費は活性化せず、実質GDPはあまり伸びていません。

また、2016年に内閣府がGDPの算出方法を変え、その結果GDP3%分くらい上方修正されていますが、それもアベノミクスの成果とは無関係です。単なる統計的な操作であり、実際に経済が成長したわけではありません。

それに「円建ての名目GDP」が増えたものの、円安誘導のせいでドル建てのGDPは大幅に減少している点も見逃せません。日本人は購買力という点では貧しくなっています。

たとえば、1ドル80円から1ドル120円に円安が進めば、ドル建てでみた所得は一気に目減りします。2012年の日本のGDPは5.96兆ドルでしたが、2016年には4.93兆ドルです。ドル建てで見たら、日本経済の規模は大幅に縮小しています。

経済学用語でいえば、円安ドル高が進むということは、「交易条件が悪化している」といえます。「交易条件」とは、輸出商品と輸入商品の交換比率のことです。一国の貿易利益(つまり貿易による実質所得の上昇)を示す指標となります。円が安くなるということは、交易条件が悪化するということです。

円が安くなれば、同じ金額でより少ない物しか輸入できなくなるわけです。輸出を増やすために通貨安へ誘導することを「近隣窮乏化政策」と呼ぶことがありますが、国民の実質所得を減らすことになるので下手をすれば「自国民窮乏化政策」になりかねません。アベノミクスの円安誘導は、この「自国民窮乏化政策」の一例かもしれません。

たとえば、外国人観光客が増えている最大の理由は、円安のおかげで「日本は物価が安い」ということだと思います。中国人や韓国人の観光客が、日本人のホスピタリティや日本食のおいしさに突然目覚めたわけではないと思います。テレビの「日本 スゴイですね」的な番組を見ていたら、本質を見失います。

他方、円安が進めば、海外旅行や海外留学には不利な状況になります。旅行収支が黒字になるのはある意味で当然です。「外国人が日本に旅行しやすくなり、日本人が海外旅行しにくくなる」という政策は、手放しでほめられる政策でしょうか?

「円安」イコール「日本にとってプラス」という発想は、そろそろ考え直す時期かもしれません。少なくとも消費者の目線でいえば、ガソリンや食品が値上がりし、海外旅行がしにくくなり、マイナスの方が大きいのは明らかです。