脱化石燃料と脱ロシアで「気候正義」を

ちょっとマニアックな雑誌ですが、「国際開発ジャーナル」(国際開発ジャーナル社)の2022年7月号の明日香壽川教授(東北大学)の寄稿文がおもしろかったです。

タイトルは「気候危機とグリーン・ニューディールという希望」です。なお、明日香教授には「グリーン・ニューディール」(2021年、岩波新書)という著書もあり、私のブログでもご紹介させていただいたことがあります。

バイデン政権のグリーンニューディール
米国では「地球温暖化は嘘だ」と言っていた嘘つき大統領が退任し、バイデン政権になり、気候変動政策は大きく変わりました。その具体的な内容が、明日香壽川教授(東北大)の近著「グリーン・ニューディール」に書いてあったので一部ご紹介します。 ...

明日香教授の文章から引用させていただきます。

科学は常に警告してきた。例えば、世界気象機関(WMO)の報告書、「State of Climate in 2021: Extreme Events and Major Impacts」によると、過去50年間(1970~2019年)に気象、気候、水に関する災害が毎日発生し、毎日平均115人が死亡、2億200万ドルの損失が発生した。また、災害の発生件数は50年間で5倍に増加した。気象、気候、水災害は全災害の50%で、死者の91%以上は開発途上国で発生した。最も大きな人的被害をもたらした災害および死者数は、干ばつ(65万人)、暴風(57万人7千人)、洪水(5万9千人)、異常気温(5万6千人)だった。

日本にいるとわかりませんが、もっとも死者の多い自然災害は干ばつで、65万人もの人が亡くなっています。日本では干ばつの死者はゼロでしょうが、開発途上国では深刻です。気候変動の影響なのは確実です。

気候変動の被害は、決して平等ではありません。豊かな先進国より、貧しい開発途上国の方が被害を受けやすく、富裕層よりも貧困層が被害を受けやすいです。

途上国のスラムなどは低湿地にあることが多い一方で、「山の手」という言葉があるくらいで富裕層は高台に住む傾向があります。低湿地ほど洪水や暴風の被害を受けやすいことは言うまでもありません。

このような不公平を「気候正義(クライメート・ジャスティス)」と呼びます。明日香教授によると気候変動においては次の3つを意味します。

  1. 一人当たりの温室効果ガス排出量が小さい開発途上国の人々が、一人当たりの排出量が大きい先進国の人々よりも大きな被害を受ける。
  2. 先進国でも貧困層、先住民、有色人種、女性、子どもが現実としてより大きな被害を受ける。
  3. 今の政治に関わることのできない未来世代がより大きな被害を受ける。

富裕層の方が、大きな自家用車に乗り、大きな家に住む分だけよけいに冷暖房を使い、より多くの資源を使い、より多くの温室効果ガスを排出しているはずです。しかし、貧困層の方がより大きな被害を受けます。

このような「気候不正義」に立ち向かう手段が、「グリーン・ニューディール」や「グリーン・リカバリー」と呼ばれる政策です。

省エネと再生可能エネルギーによって雇用創出と景気回復を達成しつつ、温室効果ガスの排出量を削減する政策です。さらに気候変動危機に対して強靭な社会をつくるための防災や都市計画も含みます。

たとえば、日本の「未来のためのエネルギー転換研究グループ」の脱炭素化シナリオは、次のような数字を示しています。

  • 投資額: 202兆円(民間151兆円、公的資金51兆円)
  • 雇用創出数: 2,544万人(年間254万人の雇用が10年間)
  •  エネルギー支出削減: 累計358兆円
  • 化石燃料輸入削減:          累計51兆円

つまり投資するお金は、エネルギー支出の削減額の累計で十分にカバーできるということです。経済的に割に合う上に、温室効果ガスの排出量を削減できます。

さらに別の本で読んだのですが、エネルギーの単位当たりの雇用創出数では、原子力発電や火力発電よりも、太陽光発電や風力発電の方が多くの雇用を創出できます。再生可能エネルギーは分散型エネルギーなので、地方の雇用創出には効果的です。

ロシアによるウクライナ侵攻で化石燃料価格が高騰しています。いまこそ脱炭素化を進めるために省エネと再生可能エネルギーに重点投資すべきです。ロシアのプーチン大統領に好き勝手させないためにも、人類は化石燃料への依存を一気に下げる必要があります。脱ロシア化のための脱炭素化が、これからの課題です。日本のエネルギー安全保障を考えれば、今こそ省エネと再生可能エネルギーに国を挙げて取り組むべきタイミングです。