経産省もしぶしぶ認めた原発の高コスト

経済産業省は2030年時点の電源別の発電コストについて新たな試算を公表しました。経産省はこれまで原子力発電のコストが一番安いと主張してきましたが、ついに「原発は低コスト」と強弁しなくなりました。世界的な「自然エネルギー革命」の現実の前に経済産業省もしぶしぶ認めたということでしょう。

東北大学の明日香壽川教授の新著「グリーン・ニューディール」(岩波新書)によると、太陽光パネルは小さく、薄く、軽く、やわらかく、効率よく、そして安くなっています。現在の太陽光パネルの国際価格は、2010年から2019年にかけて10年間で10分の1になっています。

風力発電は10年間で3分の1になり、蓄電池は10年間で4分の1になっています。エネルギーに関する情報はわずか数年で古くなってしまいます。太陽光発電と風力発電は予想を上回るスピードで普及しています。

米国の政府機関によると、米国内では2020年段階で自然エネルギー(太陽光と風力)のコストは、原子力発電および石炭火力発電の半分以下まで低下しているそうです。石炭火力発電よりも自然エネルギーの方が安くなったのは驚きです。石炭火力発電の未来は暗いです。

経産省の試算はあやしいです。原発立地自治体への補助金が原発のコストの反映されていないし、「容量市場」という名の事実上の原発補助金もこれから始まります。最終処分場のコストなども含まれていないと思います。実際のところは、今の段階でもすでに原発の方が高コストではないかと思います。

原子力発電を推進する人たちは「ベースロード電源として原発は必要」と主張しますが、明日香教授によると「ベースロード電源という言葉は、エネルギー・システムの研究者の間では死語」だそうです。風力や太陽光の発電量の予測技術が発展し、広域での電力融通やバッテリーの価格低下、IoT技術を活用した需給バランスの調整などの手法により、ベースロード電源の必要性は低下しています。

菅政権は「脱炭素化を進めるために原発が必要」と主張していますが、これも国際的にはあまり説得力のない主張です。国際エネルギー機関(IEA)の最近の報告書では「原発は、他の発電エネルギーと比較して、温暖化対策としてみたときのコストは高く、そのわりに雇用創出は小さい」と記述されています。

原子力発電は価格競争力を失っています。原発の安全対策の費用はどんどん上昇しています。災害に備えつつ、テロや軍事攻撃にも備えなくてはいけないので、原子力発電所の安全対策費はとても割高になります。テロや災害に対する脆弱性を考えれば、安全保障上も大問題です。核廃棄物の処理の問題も解決していません。もはや原子力発電を推進する合理的な理由はないと思います。

*参考文献:明日香壽川 2021年「グリーン・ニューディール」岩波新書