再び「ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法」の情報の基づき、主に発展途上国のおける家族計画と女子教育の重要性について書かせていただきます。地球温暖化対策の有効性ランキングのトップ10には次の2つが入ります。
6位 女児の教育機会
7位 家族計画
先進国の日本では状況が異なりますが、家族計画と女児教育は、意外と地球温暖化防止に有効らしいです。発展途上国における「家族計画」といえば、女性の権利保護や女性の教育(啓発)が主たる活動領域なので、6位と7位は連動しています。本書の著者たちは、その点を考慮して6位と7位のインパクトを同率としています。実質的には「同率タイで6位」です。
男女が平等ではない現状では、気候変動の悪影響を受けやすいのは女性です。特に発展途上国の女性は悪影響を受けやすい立場にいます。性別による差別と抑圧、社会的排除は、実際にはすべての人にとって損になります。
6位 女児の教育機会
先進国では女の子の教育機会の均等が進み、欧州の一部の国では大学進学率でみると女性の方が高い国もあります。女児の方が男児よりもまじめに勉強するせいか、社会が発展すると女性の大学進学率が男性よりも高くなります。日本でも近い将来そうなるでしょう。
しかし、発展途上国の多くでは、先進国と事情が異なります。いまだに「女の子に教育は必要ない」という考えも根強いです。また「嫁に出す」という発想の社会では、家を出ていく女の子の教育に投資しても「ムダだ」という考えも残っています。
一般に教育年数が長い女性ほど、子どもの数が少なく、生まれた子どもの健康状態がよく、自分のリプロダクティブヘルス(性と生殖に関わる健康)を積極的に管理します。このことは特に発展途上国で重要なポイントです。
日本を含めて先進国では少子化が問題ですが、いまだに多くの発展途上国では急激な人口増加が問題です。人口増加のスピードが速すぎると資源の制約により、十分や公教育や保健医療サービスを用意できなかったり、人口圧による環境破壊を引き起こすことも多くなります。
教育を受けた女児は、将来の賃金が高く、地位も向上し、産んだ乳児の死亡率も低く、児童婚を強制されることも少なくなります。家族の栄養状態の改善にもつながり、貧困の解消にも貢献します。教育を受けた女性は、新しい情報や知識にアクセスして理解することができ、災害や疾病、病害虫などにも効果的に対処できます。
ふつうに考えて「地球温暖化をくい止めるために女児の教育に力を入れるべき」という主張は変です。気候変動とは無関係に女児の教育機会を広げるべきです。そもそも教育を受ける権利は保障しなくてはいけません。一方で本書の著者たちは、女児の教育機会の拡大は、きわめて費用対効果の高い地球温暖化防止策だと認識しているので、「女児の教育が大切な理由のひとつ」として挙げることは差し支えないと思います。
日本では「女児の教育機会の拡大」といってもピンときませんが、ODAやNGOによる発展途上国への教育援助を拡充することが重要です。コロナ禍で国際協力への関心が低くなっている印象がありますが、コロナ禍で世界中の学校が休校になり、教育システムは打撃を受けています。発展途上国の女児教育の機会が損なわれています。日本人としてできることがあります。
7位 家族計画
人口が多いほど地球に負担をかけることは間違いありません。日本や多くの先進国では、人口減少が問題なので、家族計画は重要なテーマではありません。しかし、いまだに人口が急増している国では、持続可能なレベルまで人口増加のスピードを落とす必要があります。
強制的な不妊手術などは許させるべきではありませんが、女性が自由意志で取りくめる産児制限とそのための手段の提供には意義があります。適切な間隔をあけて出産する方が、母子ともにより健康になります。また、女性が生涯に産む子どもの数の平均が6人から2人に減少すれば、子ども1人あたりに投入できる資源が増え、より良い栄養と教育を子どもに提供できます。
もちろん子どもの3人、4人と持ちたい女性に対して、かつての中国の「ひとりっ子政策」のように無理やり産児制限を押しつけることは避けるべきです。何を隠そう、私自身は4人きょうだいの4番目です。4人きょうだいだから不幸だったということはありません(4番目で雑に育てられた感じはありますが、過保護より良いかもしれません、、、)。私は4人目でしたが、両親から望まれて産まれてきました。そういうケースは否定しません。
しかし、産児制限のための手段(避妊具)がない、あるいは、自らの意志に反して、5人、6人と出産せざるを得ない女性を減らすことは重要です。女性の尊厳と人権を守るための家族計画は必要です。もちろんウイグルやチベット、内モンゴルで行われているような強制的な家族計画は許されるべきではありません。
以上の「女児の教育機会」も「家族計画」もターゲットは発展途上国です。ODAや国連機関の女児教育や家族計画への予算配分や拠出を増やすことが、日本政府にできる地球温暖化対策のひとつであると考える必要があります。
*参考文献:ポール・ホーケン編著 2021年「ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法」山と渓谷社