地球温暖化と私たちの食生活

今回も「ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法」の情報に基づき、食生活と地球温暖化の関係について書かせていただきます。地球温暖化対策の有効性ランキングで意外と上位なのが「食べ物」に関わることです。トップ10位以内に次の3つがランクインしています。

ランキング3位 食料廃棄の削減

ランキング4位 植物性食品を中心にした食生活

ランキング9位 林間放牧(シルバパスチャー)

 

ランキング3位 食料廃棄の削減

食料廃棄の削減が地球温暖化を逆転させる方法の第3位というのは意外でした。そこまでインパクトのある対策だったら、自然エネルギー普及や省エネと同じくらい力を入れた方がよさそうです。しかも必要な予算は少ないどころか、トータルで考えると歳出削減につながる可能性が高いです。

食料の3分の1は廃棄されています。人間活動による温室効果ガス排出量の8%は、廃棄される食料に由来するそうです。食料廃棄を半分に減らせば、大雑把にいえば温室効果ガスは4%くらい削減できます。

インフラの脆弱な発展途上国では、道路事情の悪さ、冷蔵設備や貯蔵設備の不足、粗末な包装、高温多湿といった理由で、食料が廃棄されています。飢餓人口が何億人といわれる途上国で、大量の食料が廃棄されるのは残念です。

先進国ではサプライチェーンの下流で食料廃棄が多く、見た目の悪い野菜や果物を廃棄したり、売れ残りを廃棄したり、というケースが大半です。野菜や果物は食べられなくなる前にジュースやジャムなどに加工したり、貧困層のためのフードバンクに寄付したりといったことで食品ロスを減らすことができます。

フランスでは2015年にスーパーマーケットが売れ残った食品を捨てることを禁じ、代わりに慈善団体や動物飼料・堆肥会社に譲渡することを義務づける法律が可決したそうです。法律で決めるかどうかか別として、フランスの取り組みはみならって推奨すべきだと思います。農業や食品加工業が盛んな地方自治体では条例化してもよいのではないでしょうか。

 

ランキング4位 植物性食品を中心にした食生活

私も肉が大好きなので耳が痛いですが、肉食中心の食生活は温室効果ガスの排出を増やす要因になっています。家畜の飼育は、世界全体の温室効果ガスの15%を占めています。肉と乳製品の生産は、野菜や果物、穀物や豆類よりも、はるかに大量の温室効果ガスを排出します。

牛などの反芻動物は、エサを消化する際にメタンを生成します。メタンはCO2よりも温室効果が高く、地球温暖化を加速させます。家畜の飼料の栽培でも温室効果ガスが排出されます。より環境にやさしい後述の「林間放牧」などに切り替えることで、地球温暖化への影響を減らすことが可能です。

植物性食品を中心にした食生活だと、温室効果ガスを減らせます。たとえば、ふつうに肉や乳製品を食べている人が、ビーガン(完全菜食主義)になると70%、ベジタリアン(チーズや牛乳は摂取する)になると63%も、温室効果ガスの排出を減らせるそうです。私などはとてもベジタリアンにはなれませんが、少しは肉食を減らした方が健康にも環境にもよいでしょう。

畜産で出るメタンを集めてバイオマス発電で燃やしたり、林間放牧を推進したりと、環境負荷を減らした畜産業をめざす必要があります。国産の畜産品は輸入品に比べてカーボンフットプリントが小さいので、輸入される牛肉やチーズの消費を控え、国産品で代替することも有効でしょう。国産品の方が高価ですが、そのぶんだけ地球環境への負荷は少なく、消費量を少し減らせば健康にもよいかもしれません。

同書で初めて知った言葉ですが、「リディースタリアン(Reducetarian=肉食減量主義)」の推進も有効だそうです。肉食を少し減らして、輸入の肉より国産の肉を食べるようにしたり、牛肉よりも豚肉、豚肉よりも鶏肉にシフトすると、温室効果ガスの排出を減らすことができます。さらに後述の林間放牧(シルバパスチャー)の牛肉を選んで買うようにすれば、環境負荷を小さくできます。私はベジタリアンにはとてもなれないので、少しだけ「リディースタリアン」をめざします。

 

ランキング9位 林間放牧(シルバパスチャー)

この言葉「シルバパスチャー」もこの本で初めて知りました。林間放牧(シルバパスチャー)は、木と牧草地、飼料をひとつの家畜飼育システムに統合するものです。森のドングリを食べるイベリコ豚がその例です。スペイン等では伝統的に林間放牧が行われてきました。林間放牧は、木を持続可能な共生システムに組み込み、広義の「アグロフォレストリー(森林農法)」のアプローチのひとつです。

アマゾンの熱帯雨林を切り開いて商業的に大規模な牛の飼育を行うよりも、林間放牧の方が環境にやさしいことは容易に想像できます。林間放牧では、土壌に炭素を隔離することができ、温室効果ガスを減らすことができます。牧草地での畜産よりも、林間放牧の方が5~10倍も炭素を隔離できます。さらに林間放牧の方が、面積当たりの生産性が高いので、より狭い範囲の土地しか必要としません。

あわせて林間放牧のために植える木をナッツや果物の実る木にすれば、畜産収入に加えて、林産物からも収入を得ることができます。畜産と林産の組み合わせで、農家の経営が多角化・安定化します。木の実も飼料になるため、飼料代の節約になり、農家の所得向上につながります。木の陰にいて直射日光を避けられるため、家畜の健康にもよいそうです。林間放牧は発展途上国で特に有益です。熱帯雨林の森林伐採をくい止めるためにも、林間放牧の普及を推進すべきです。

*参考文献:ポール・ホーケン編著 2021年「ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法」山と渓谷社