地球温暖化を止める100の方法

最近出た「ドローダウン(Drawdown):地球温暖化を逆転させる100の方法」という本の紹介です。地球温暖化をくい止める対策を効果のある順に100位までランキングをつけた本です。

意外な対策が上位だったりして、おもしろくて役に立つ本です。環境政策、都市計画、経済政策などの政策決定に関わる人は、座右に置いて参照するとよいと思います。

ところで、福岡市の都市計画は、20世紀の高度成長期的な発想の残滓に基づいているように見えます。たとえば、福岡市長ご自慢の「天神ビックバン」の特設サイト内「コンセプト」を見てみましたが、環境配慮や脱炭素化といった言葉はいっさい出てきません。そこには雇用や景観、空間のことしか書かれていません。

経済や雇用のことが重視される一方、地球環境や未来の世代ことは少しも考えていないように見えます。21世紀の都市計画とは思えないのが残念です。視野狭窄、近視眼的な街づくりにならないか心配です。今からでも脱炭素化や環境配慮の視点を充実させてほしいものです。ぜひこの本を参考にしてコペンハーゲンのように環境に配慮した美しい街づくりに取り組んでいただきたいものです。

この本の長所は、コスパの良い対策がランキング上位にあれば、その対策に予算を優先配分すればよいことがすぐわかり、実用的な点です。たとえば、高価な原子力発電に予算を投じるよりも、発展途上国の貧しい人たちが使う燃料節約型コンロにODA予算を投じた方が、ずっと安上がりに温室効果ガスを削減できることがわかります。

途上国では今でも食事の煮炊きに薪や木炭を使っている人口が多く、そのために森林伐採が進んでいます。燃料用の木材消費を減らすことは、地球温暖化対策として有効です。調理コンロの温暖化防止効果は、ランキングでは21位に位置づけられます。他方、原子力発電の温暖化防止効果は20位ですが、だんぜん高コストです。

しかも途上国で調理コンロを使う貧困層や農民にとって、燃料の節約は可処分所得の増加を意味します。温室効果ガスの削減と貧困の削減の「ダブルの削減」につながるODA政策です。

私がフィリピンの大学に留学していた1990年代の段階ですでに簡易コンロの有効性が知られていました。しかし、まだまだ普及の余地があります。すでに確立した技術なので、普及だけが課題であり、予算さえつければ確実に普及します。

驚いたのはランキングのナンバー1が、かなり地味な対策だったことです。地味すぎて想像もできませんでした。地球温暖化を逆転させるのにもっとも効果的な対策は、太陽光発電でもなければ、熱帯雨林の保全でもなければ、ましてや原子力発電所の新増設でもありません。なんと「冷媒」です。

冷蔵庫やエアコンの「冷媒」のフロンガスに関しては、オゾン層を守るための1987年モントリオール議定書で使用が禁止されました。他方、代替フロンといわれる冷媒のハイドロフルオロカーボン(HFC)は、オゾン層には無害ですが、温室効果は二酸化炭素の1,000~9,000倍です。

地球温暖化防止の観点から今度は代替フロンの規制が必要になりました。「代替フロンの代替」が必要です。2016年にルワンダのキガリで開かれた国際会議でHFCの規制が合意され、世界はHFCの使用を段階的に削減していくことが決まりました。このキガリ協定の結果、地球温暖化が摂氏0.5度近く抑えられる見込みだそうです。

私も知りませんでしたが、冷媒のHFCの温室効果がそれほど大きいのであれば、日本政府はHFCの削減にもっと力を入れるべきです。発展途上国におけるHFC削減には、先進国からの資金援助と技術援助が欠かせません。ODAの最優先分野をHFC削減にしてもよいくらいです。

地球温暖化を逆転させる100の方法には、自然エネルギー、省エネ、環境保全型農業、都市計画、公共交通機関、LED照明、熱帯雨林保全、女子教育、女性の権利など、さまざまな方法が含まれています。この本は、「読む」というより、折にふれて「参照する」本です。議員や行政官は手元に置くべき本です。すでに党内の何人かの国会議員に薦めました。お薦めです。

*参考文献:ポール・ホーケン編著 2021年「ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法」山と渓谷社