日本人のかなりの割合が利用しているアプリのLINE。そのLINEの個人情報が中国の委託先からアクセス可能となっていた問題が注目されています。立憲民主党の国会対策委員会では、国対幹部間でのLINE使用を当分の間ひかえるそうです。私はいま国対に所属していませんが、以前は国対委員長代理だったので以前なら該当者でした。
もっとも私はLINEを使ったことがないので、何の支障もありません。ときどきLINEの連絡先を聞かれて「LINEやってない」と答えるとけげんな顔をされます。「LINEやってない」と言っただけで変人扱いを受けてきたのが、これまでの日本社会でした。
大学生の頃の友人のアメリカ人にLINEを聞かれて、「LINEやってない」と答えたら、「LINEやってない日本人、山内が初めて」とあきれられました。しかし、これからはLINEやらないのが時代の最先端になるかもしれません。
LINEの個人情報が中国に筒抜けという問題は、個人情報保護の問題であると同時に、国家の安全保障上の問題です。中国のサイバー戦部隊は10万人規模とも言われ、ネット上の検閲システムも完璧に近いと思います。中国政府には人権やプライバシーなどという感覚はまったくありません。香港やウイグルの問題を見れば明らかです。(注)
中国の対外情報機関や治安機関、軍の情報部は、おそらく日本の一般市民の個人情報にはあまり興味がないと思います。他方、これらの中国の公的機関が興味を持つのは、有力な政治家や経済官庁等の幹部官僚のLINEの通信だと思います。
外国の情報機関が関心を持つ情報は、(1)政治情報、(2)外交機密、(3)防衛機密、(4)経済情報(最先端技術)などです。
かつてヒラリー・クリントン国務長官が、私用メールで外交機密をやり取りしていて問題になりました。同様に私用LINEで機密情報をやり取りしていれば、中国の情報機関や治安機関、軍の情報部に筒抜けになっていた可能性があります。
最近の外務省や防衛省・自衛隊は情報保全規定が厳しいので、私用LINEで機密情報をやり取りする人はおそらくいないと思います。また技術的に機微にふれる情報をLINEでやり取りする防衛産業関係者や経産官僚もおそらくいないと思います。(*もっとも私はLINEの仕組みを知らないので、確信をもって言えませんが。)
いちばんターゲットになりやすいのは有力政治家です。むかしから日本で情報漏洩が起こりやすいのは政治家だと言われ続けてきました。一部の政治家は「オレはこんな機密情報まで知る立場にいるんだ」ということを誇示するために機微情報を漏らすことがあります。かつては情報保全意識がいちばん低いのは政治家と相場が決まっていました。
したがって、対中国政策をはじめ外交政策や通商政策に関わる有力政治家のLINEは、中国の情報機関の重要なターゲットだと思います。仮にLINEで機微な情報をやり取りしなくても、有力政治家の場合は「誰と誰がこっそり会っている」というのも重要な情報です。
主要国の在京大使館の政治班(あるいは情報機関員)は、週刊文春や週刊新潮、文藝春秋などの政治記事をそれぞれの母国語に翻訳してせっせと本国に送っていると思います。有力政治家の動向や人間関係、面談相手というのは、重要なインテリジェンスです。
そういう意味では、何年も前から「LINEは外国企業だから、国会議員は使わない方がいい」という声が議員会館周辺でありました。うちの秘書は前からそう言っていました。私の場合はそこまで考えてLINEを避けていたわけではありませんが、以前から永田町で密かに語られていた懸念はやはり本当だったことがわかりました。
これからは「LINEをやらない人は迷惑だ」という批判に毅然とした態度で反論できます。「LINEやってませんけど、何か?」と。
(注)誤解のないように但し書きをつけます。私は中国人への偏見や差別意識はなく、中国の文化や歴史に多大な関心と敬意を持っています。しかし、現在の中国共産党政権による香港の民主化運動弾圧やウイグルやチベット、内モンゴル等における少数民族の自決権を脅かす動きには反対です。日中友好は大切であり、日中で戦争を起こさないことが最重要の外交課題だと思っていますが、人権問題に関しては西側諸国と連携して中国政府に改善を働きかけていく必要があると考えます。