安倍政権とアベノミクスの大失敗の1つは原発政策です。福島第一原発事故の後に脱原発の世論が強まっていたにも関わらず、原発依存度を上げる努力(=悪あがき)を行い、原発輸出を試みて大きな損失を出し、自然エネルギー(再生可能エネルギー)の普及を抑制し、と惨憺たる結果でした。
その経緯をとてもわかりやすくまとめた本があるので、その一部を抜粋しながらご紹介させていただきます。本のタイトルは「メガ・リスク時代の『日本再生』戦略」(筑摩選書、2020年)で、飯田哲也さんと金子勝教授の共著です。著者から献本していただいて読みましたが、とても良い本でした。自腹を切っても買う価値がありました。
以下に近年の原発政策の失敗をふり返ります。
小泉政権は、原子力発電を推進すべく、2005年「原子力政策大綱」を閣議決定しました。2006年に「原子力立国計画」が決まりました。この時に中心的な役割を果たしたのが、第二次安倍政権の政務秘書官として官邸官僚の筆頭だった今井尚哉氏(経産省)です。
東芝は、2006年に米国の原発メーカーのウェスティングハウスを約6,400億円で買収しました。国策(経済産業省の政策)に沿って東芝は、原発建設と原発輸出に多額の投資をしました。
しかし、9・11テロ事件の後に米国の原発の安全規制が厳しくなり、福島第一原発事故後は安全規制が一層強化されました。その結果、原発建設コストは高騰。それに追い打ちをかけたのが、米国のシェールガス生産の急増でした。安価なシェールガスによる火力発電のコスト低下で、原発のコスト競争力は低下し、ウェスティングハウスは倒産しました。
ウェスティングハウスの倒産で親会社の東芝も打撃を受け、医療機械部門、半導体部門、白物家電部門等の優良部門を切り売りすることになりました。東芝という日本を代表する製造メーカーが、原発部門の損失で存亡の危機に陥りました。
日立もドイツの原発開発企業を買収し、英国で原発建設を進めていました。しかし、安全規制の強化により建設コストが高騰し、建設計画を凍結せざるを得なくなりました。その結果3,000億円の特別損失を計上せざるを得なくなりました。また、日立が関わっていたリトアニアの原発建設計画は、国民投票で否決され、建設計画がとん挫しました。
三菱重工は日本政府の後押しでトルコで原発を建設する計画を進めていましたが、やはり安全規制強化でコストが高騰したことと、建設予定地で活断層が見つかったため、建設計画がとん挫しました。
東芝、日立、三菱重工の三社が関わっていた台湾の原発建設計画も、台湾政府の判断で取りやめになりました。ベトナムへの原発輸出もベトナム政府が中止を決めてとん挫しました。原発輸出は死屍累々で成功例が1つもありません。
日本を代表する製造メーカーが、「原子力立国」のかけ声と経産省の後押しで、原発建設と原発輸出に力を入れましたが、すべて失敗に終わり、巨額の損失を出しました。製造業の基礎体力を奪った政策でした。
誤った産業政策が、これほど大きな害悪を及ぼした例は少ないと思います。原発輸出はアベノミクスの柱のひとつでもあり、安倍政権の罪は重いと言えます。
かつて「安倍一強」と言われた安倍政治の特色のひとつは、経産官僚の影響力が大きいことです。原発政策ひとつを見ても経済産業省の先見性の無さにはあきれます。カジノもアベノマスクも経産官僚が推進してきました。優秀なエリートが集まっているはずなのに“残念な役所”です。
安倍政権は2018年に「第五次エネルギー基本計画」を閣議決定しましたが、引き続き原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発依存を維持しようと悪あがきをしていました。
政府は「運転コストが低廉」と主張しますが、そこにはウソがあります。ここで言う原発の「運転コスト」に建設コストが含まれていません。日本の原発輸出が軒並み失敗したのは、安全規制の強化による建設費のコスト高です。既存の原発もテロ対策等も含めた安全規制が強化され、より高コストになっています。
ちなみに原発の「運転コスト」との比較でいえば、建設コストを無視してよいのであれば、太陽光発電や風力発電は「燃料費ゼロ(=限界費用ゼロ)」ですから、自然エネルギーの「運転コスト」はさらに安くあがります。自然エネルギーの優位はさらに際立ちます。
また、原発のコストには、福島第一原発事故の事故処理費用が入っていません。最終処分場も決まっていませんが、何百年も先まで維持管理費が発生します。未来の世代に大きな負の遺産を残しますが、それも原発コストには算入されていません。
さまざまなコストを含めると原発はもっとも高くつく電力源でしょう。「原子力立国」は絵に描いた餅でした。世界では自然エネルギーのコストが劇的に下がっています。「自然エネルギー立国」こそが正しい選択です。安倍政権の原発政策の負の遺産を清算し、自然エネルギーにシフトする必要があります。