コロナ後:観光公害のない観光政策へ(上)

いま「Go To キャンペーン」の是非をめぐって多くの批判が出ています。センスのないネーミングからしてどうかを思います。このキャンペーンに限らず、コロナ危機の前から日本の観光政策には問題がありました。

私は、訪日観光客の「人数(量)」の増加ばかりをめざす政策は誤りだと思っていました。訪日観光客受け入れのメリットを最大化するには、「人数(量)」よりも「経済的インパクト」を重視しつつ、観光客を受け入れる地域コミュニティへの負の影響を抑え、自然と調和した観光をめざすべきだと以前から考えていました。

コロナ危機でインバウンド観光客は激減(というより消滅)し、これまでの観光政策を立ち止まって考え、新しい方向性を議論するよい機会だと思います。

訪日外国人旅行者のピークは昨年(2019年)の3188万人です。たとえば、2012年の836万人に比べると急増していることがわかります。「訪日外国人旅行者」には、観光以外の目的の人も含まれますが、かなりの割合が観光客であることは間違いありません。昨年まではすごい勢いでインバウンド観光客が増えていたことになります。

特に増えたのは中国(本土)からの観光客です。2015年に中国に対してビザの要件を緩和したので、それ以降どっと中国人観光客が増えました。そもそも観光客(送り出し)の人数の世界第1位は中国です。世界中で中国人観光客に出会うはずです。中国のすぐ近くの日本に中国人観光客が押し寄せるのは当然です。

安倍政権の円安誘導政策もインバウンド観光客の増加につながっています。円安で相対的に日本の物価が下がりました。円安で日本に旅行するのが安上がりになったから、インバウンド観光客が増えたのは当然です。

最近になって急に日本が魅力的になったからインバウンド観光客が増えたわけではありません(日本は昔から魅力的です。)。単に為替レートがインバウンド観光に有利になったから、外国人観光客が増えたというのが実情だと思います。

さらにLCCで航空運賃が安くなったこと、クルーズ船観光が安くなったことも要因に加えてよいでしょう。それも含めて「日本旅行は安上がり」というのが、インバウンド観光客が増えた最大の要因だと思います。

日本にやって来るインバウンド観光客は、中国、韓国、台湾、香港等の近隣諸国が大半です。人数だけを見ると中国(本土)がいちばん多いです。人口比で見ると韓国や台湾からの旅行者は非常に多いです。

以上のような背景を考えても、インバウンド観光客に過度に依存するのは高リスクだと思っていました。第一の理由は為替レートの変化です。もし急に円高に振れた場合には、インバウンド観光客は一気に減少するだろうと予測していました。

為替リスクを考えると、インバウンド観光客、それも「低コストだから日本に来る」という観光客に過度に依存するのは危険です。単に安さが魅力だと、円高になったら一気に外国人観光客が減ります。

インバウンド観光客に過度に依存するのが危険な第二の理由は、隣国の観光客の動向は政治的影響を受けやすいことです。在韓米軍のミサイル迎撃システム(THAAD)の配備を受けて、中国政府は2017年3月に韓国旅行商品の販売を禁止しました。それにより中国人旅行者が激減し、韓国の旅行業界は大打撃を受けました。

同じようなリスクがあるので、中国人のインバウンド観光客が政治的理由で激減するリスクがあると予測しておりました。

しかし、私の予測とはちがって、韓国の徴用工裁判問題や日本政府の対韓国輸出規制の問題があり、2019年に韓国人インバウンド観光客が激減しました。国は間違いましたが、「政治的理由でインバウンド観光客が激減するリスクがある」という予測は当たりました。

政治的リスクは避けにくいのですが、為替レート(円高)のリスクに関しては対策の打ちようがあります。「割高でも日本が好きだから日本に行く」という外国人観光客を増やすことです。裕福な外国人旅行者は、為替レートにこだわらず、しかもリピーターになってくれたり、長期滞在してくれる可能性が高いです。

したがって、コロナ後の観光政策は「量より質をめざす」「外国の富裕層を主なターゲットにする」ことを柱にすべきだと思います。

*長くなったので次回に続く。

*参考文献:アレックス・カー、清野由美、2019年「観光亡国論」中公新書ラクレ他