ポストコロナの社会や経済は、これまでとは少し違う形になると思います。コロナで社会や経済が大転換するとは思いませんが、コロナ前からのトレンドが加速するといった変化はみられると思います。
コロナ後の社会をつくっていく上で世界的にキーワードになりつつあるのが、「グリーン・ニューディール」です。オバマ大統領のころにリーマン危機からの回復のために「グリーン・ニューディール」政策が打ち出されました。
その後も米国の民主党議員の多くは「グリーン・ニューディール」を訴え続け、オバマ大統領時代によりも再生可能エネルギーの低価格化や普及が進み、より現実性を増しています。
今年の大統領選の民主党候補のバイデン元副大統領も「グリーン・ニューディール」を経済政策の柱にしています。トランプ大統領からバイデン大統領に代われば、米国政府はすぐにパリ協定に復帰し、脱炭素化へ舵を切ることになるでしょう。
そんな米国ではコロナ危機の最中の今年3月23日に環境学者や経済学者の有志が連名で連邦議会に「コロナ後の経済再建のための緑の刺激策(A Green Stimulus to Rebuild Our Economy)」という公開書簡を発表しました。
この「緑の刺激策」はコロナ後の経済再建のために「グリーン・ニューディール」政策の活用を訴え、気候変動対策のために社会的弱者(貧困層)に配慮しつつ持続可能な経済構造への転換を提案しています。
具体的には2兆ドルをかけて「緑の仕事(green jobs)」を創出し、住宅や建物の省エネ改装、住宅への太陽光発電設備の設置、電気バスや電気自動車の導入、公共交通機関の拡充、石油・石炭産業への補助金廃止、環境にやさしい農業の推進、緑のインフラ整備等の多岐にわたる政策を提案しています。
欧州では昨年11月発足した欧州委員会の新体制のもと2050年までに炭素中立を目指す「欧州グリーン・ニューディール」政策がスタートしました。欧州委員会はコロナ危機を受けて5月27日に「再生に向けたロードマップ」を発表しましたが、そのなかで医療分野のインフラ整備と並んで「欧州グリーン・ニューディール」政策が経済再生策の柱に位置づけられています。
「欧州グリーン・ニューディール」は単に火力発電所を再生可能エネルギーに置き換えるだけではなく、CO2排出が少ない低炭素社会を目指しています。たとえば、脱炭素化に向けた住宅や建物の断熱化や省エネ化のための改修は、労働集約的で雇用創出に適しています。「グリーン・ニューディール」政策では、省エネや再生可能エネルギー推進の結果として光熱費負担が減り、投資した資金の回収も容易です。
また、公共交通機関や自転車道を整備したり、カーシェアリングを普及させることも、脱炭素化に役立ちます。再生可能エネルギー中心の自律分散型スマートグリッドの建設には膨大な予算と労働力が必要で、景気対策としても有効です。
従来型の発送電システムは、火力発電や原子力発電、大規模水力発電ダムを中心とした中央集権的なシステムでした。このような電力システムは、災害時に脆弱なことは言うまでもありませんが、サイバー攻撃にも弱く安全保障上問題です。
他方、自律分散型の再生可能エネルギーの電力ネットワークは、一部が攻撃を受けたり壊れたりしても、その他の部分は問題なく機能します。単純なことですが、再生可能エネルギーで自家発電していれば(さらに蓄電できれば)、災害時に停電の心配もなくなります。
また、ペルシア湾、マラッカ海峡、台湾海峡等で紛争が起きれば、石油や天然ガスの供給が途絶えてエネルギー危機を招く可能性があります。その点でも再生可能エネルギーは重要であり、エネルギー安全保障上も推進すべきです。災害やサーバー攻撃、テロに強いのは自律分散型の再生可能エネルギーのネットワークであり、軍事優先のタカ派の皆さんこそ再生可能エネルギーの推進を訴えるべきかもしれません。
米国でも欧州でも「グリーン・ニューディール」政策が、ポストコロナ社会に向けた主要政策に位置づけられつつあります。しかし、安倍政権はそういうことは言っていない気がします。このままでは日本はどんどん出遅れてしまいます。
これからは従来型の箱モノ行政や道路整備といった公共事業ではなく、緑のインフラ整備で経済再建を目指すべきです。グリーン・ニューディールの良いところは、省エネや再生可能エネルギー導入により、化石燃料購入費(光熱費)の削減ができ、投資資金を回収しやすい点です。脱炭素化は「割に合う」公共事業です。
いまこそ「日本版グリーン・ニューディール」政策を掲げ、「緑の経済刺激策」で経済再建と脱炭素化(地球温暖化防止)を推し進めるべきです。前向きなビジョンもなく単に現金給付だけに終始していては、日本の再建はありません。緊急時の現金給付の次の復興プランが必要で、それは「日本版グリーン・ニューディール」であるべきです。