自動車を取り巻く状況は、これから10年くらいで激変しそうです。第一に電気自動車(EV)が一気に普及することでしょう。第二に自動運転技術が交通システムを大きく変えることでしょう。
欧州や中国はガソリン車から電気自動車へのシフトに本気で取り組んでいます。都市環境、エネルギー効率、エネルギー安全保障など、さまざまな問題に関わる問題です。
欧州や中国の視点に立てば、ガソリン車を電気自動車に代替し、自然エネルギーや原子力発電の割合を高めれば、ガソリン(化石燃料)への依存を減らすことができます。それにより、ペルシア湾岸諸国やロシア、米国などに国々に化石燃料を依存しなくて済みます。エネルギー安全保障の観点から電気自動車を普及するという意図もあるのかもしれません。
日本はハイブリッド車(HEV)で成功し、成功したがゆえに、HEVという過渡的技術に投資し過ぎました。世界はHEVではなく、EVの時代に入りつつあります。日本は「成功体験の呪縛」でガラパゴスのようにHEV大国になっています。また、日本は燃料電池自動車(水素自動車:FCV)にも力を入れてきましたが、これも費用対効果が悪くて世界では主流になりそうにありません。どうやら日本が力を入れてきたHEVやFCVはマイナーな存在になりそうな雲行きです。そのうち日本でもEVが主流になることでしょう。
電気自動車が普及すると、ガソリンスタンドが激減するでしょう。英国では2040年以降はガソリン車とディーゼル車の新車販売が禁止されます。2050年くらいにはガソリンスタンドは英国からほぼ消滅することでしょう。日本でもそうなる可能性が出てきます。
自動車産業の構造も大きく変わるでしょう。ガソリンエンジンと電気モーターではまったく異なる産業構造になることでしょう。自動車メーカーではなく、電機メーカーがEVの主要なプレーヤーになる可能性もあるかもしれません。
数年以内に完全自動運転のクルマが米国で販売される見込みです。自動運転の普及は公共交通のあり方を大きく変えるでしょう。いちばん自動運転を導入しやすいのは、幹線道路沿いの路線バスです。バスの運転手不足が深刻ですが、自動運転バスが導入されれば、一気に運転手不足は解消されます。運転手の人件費負担が軽くなれば、過疎地の路線バスも復活できるかもしれません。
次に自動運転が有効なのはタクシーでしょう。タクシー代金の4分の3が人件費といわれていますが、自動運転になればタクシー料金が半額以下になるかもしれません。自動運転が普及すれば、タクシー配車も効率的になり、利用者の利便性も増すことでしょう。そもそも自家用車を保有する必要性も少なくなり、自動車の台数(販売台数)も激減するでしょう。自動車の台数が減り、交通渋滞も緩和されることでしょう。運転免許証を返上する高齢者も、安くタクシーを利用できるようになることでしょう。夜の子どもの塾の送り迎えなども、自動運転タクシーで安心かつ廉価で可能になるでしょう。
また自動運転で交通事故率が劇的に下がるといわれています。何より飲酒運転は激減します。自動車保険の掛け金は安くなるでしょう。事故が減ると、自動車整備業の修理の仕事は減るかもしれません。おそらく交通事故死者数は激減することでしょう。
自動運転が一般的になると時間貸しの駐車場ビジネスはもうからなくなるかもしれません。ちょっとした用事があったら自動運転車に「10分後に迎えに来て」と指示して、どこか別の場所に待機させることもできます。安価な自動運転タクシーが普及すると、自家用車で移動する人は減るでしょう。市街地の駐車スペースが不要になるケースも多いでしょう。
うちにはマイカーがありません。たまに子ども連れでレジャーに行くときには、レンタカーを借ります。レンタカーの何が面倒かといえば、レンタカー屋さんまで足を運ばなくてはいけないことです。旅行などに行く場合は、当然荷物が多いです。大きな荷物を持ってレンタカー屋さんまで行くのが大変です。自動運転車のレンタカーが始まれば、指定の時間に自宅までレンタカーが来てくれるわけです。レンタカー事業は今より盛んになるかもしれません。
EVと自動運転の普及で無くなる仕事もあれば、増える仕事もあるでしょう。激変緩和措置を取りつつも、前向きにEVや自動運転の普及と向き合えるように、法改正や規制改革が必要になることでしょう。環境面の配慮や高齢者や障がい者の移動手段の確保といった点も含め、より良いクルマ社会になるように今から準備しなくてはいけないと思います。
*ご参考:鶴原吉郎、2018年『EVと自動運転』岩波新書