イギリスの保守党の党首選挙を見ていて思うのは、
(1)イギリスは今でも良い意味で「帝国」であり、
(2)保守党がちっとも保守的ではない、
ということです。
日本語で「帝国」というとネガティブなイメージかもしれません。しかし、塩野七生風にいえば、ローマ帝国の強さは、植民地の被征服民に市民権をあたえて同化し、植民地出身者が皇帝になれてしまう柔軟性にあったと思います。
大雑把にいえば、「帝国」とは、複数の民族が共存して多様性を許容する国家のあり方だと言えるでしょう。国民国家(ネーション・ステート)はひとつの民族が支配的な国なので、ときとして他民族に不寛容になります。ナショナリズムが国家を危うくするケースも多いです。
他方、帝国は複数の民族から成り立つので、国民国家よりもむしろ寛容なケースもあります。オーストリア・ハンガリー帝国でもオスマン帝国でも清朝でも多民族が共存していました(一部の例外もありますが)。蛇足ですが、共産中国よりも清朝の方が、モンゴル人やウイグル人、チベット人にとっては住みやすい国だったと思います。
イギリスが今でも「帝国」だと思うのは、まず正式名称からして「連合王国」です。イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドと複数の民族が、女王陛下のもとに連合している王国です。この一点でも十分に「帝国」です。
さらに旧英領を中心として海外にルーツを持つ移民も多く、移民が社会で受け入れられています。ロンドン市長にイスラム教徒のサディク・カーン氏が選ばれるなんてことは、日本の感覚ではすごいと思います。東京都知事にイスラム教徒や中国系の日本人が選ばれることは、近未来には考えにくいと思います。
現在、保守党の党首選レースのトップを走るのはインド系のスナク前財務大臣です。この調子で行くと、インド系の首相が誕生する可能性は高いです。能力さえあれば、民族的出自を問わず、人材を登用するのが、「帝国」の特徴です。こういうところに、イギリスの良い意味の「帝国」的な気質を感じます。
次にイギリスでは、保守党がちっとも保守的ではありません。イギリスで最初の女性首相のマーガレット・サッチャーは保守党でした。もはや女性首相はイギリスでは珍しくありません。ユダヤ人の首相であるベンジャミン・ディズレーリ首相も保守党でした。イギリスの保守党は、決して保守的ではなく、革新的なことを数多く達成してきました。ある意味でこれぞ本物の保守政党かもしれません。保守思想家で政治家だったエドマンド・バークの「保守するための改革:reform to conseve」という発想に通じます。
保守党の党首選を見ていて、イギリスの強靭さと柔軟性を感じます。日本がイギリスから学ぶべきことはまだまだ多いと思います。