朝日新聞の箱田哲也氏による社説余滴「3年目の愚策の極み」(2021年7月4日付)を読んで、私が2年前に予想していた通りの結末になったことがわかり、あらためて安倍外交の負の遺産に怒りを覚えます。
箱田氏は「日本政府が2年前、半導体素材の韓国への輸出規制を強めたのは、問題だらけの悪手だった」と指摘します。日本企業に賠償を命じた韓国の徴用工判決に対抗して、韓国政府への報復として採用された「悪手」です。
この輸出規制が徴用工問題と関係するのは明らかで、当時の安倍官邸の指示でした。日本の関係企業にかなりの損害が出ることから、経済産業省や外務省は慎重でした。しかし、官邸の指示で強行され、半導体素材の輸出量は激減して、好調だった事業は暗転しました。
世界的な半導体不足のなかで、半導体素材の輸出規制をしたのは、最悪のタイミングでした。また、韓国政府の支援策で半導体素材の韓国企業による国産化が進み、韓国企業の実害は少なかったそうです。日本企業に害を与えただけの結果に終わりました。
他方、この輸出規制は参院選の直前に実施され、韓国に反感を持つ人たちには「ウケる」のだと思います。対外的に強硬な姿勢をとれば、一部の人たちが熱狂的に支持するのはわかりきったことで、自民党の選挙対策としては有益だったのかもしれません。
箱田氏は「ある日本政府関係者は『結果として愚策の極み』とまで言い切る」と結びます。まったくその通りです。私は2019年7月3日付で「害交の安倍では?」というブログで次のように指摘しました。
輸出規制は日本企業にも悪影響が及びます。自らの首を絞めることになりかねません。輸出規制対象の品目は日本企業に圧倒的な強みがある分野ですが、韓国企業をはじめ各国企業が危機感をもって自給を目指せば日本企業の競争相手が生まれます。長い目で見れば、日本企業の競争相手を利する規制になりかねません。
輸出規制発表のタイミングも気になります。大阪のG20は目立った成果もなく、参院選の支持率アップに貢献しませんでした。金正恩とトランプの電撃首脳会談に注目が集まり、安倍総理の影が薄くなりました。G20で支持率アップという思惑が外れたので、別の手を考えた結果、輸出規制という強硬な手段を用いたのかもしれません。(中略)
世論の支持を集めるために、排他的なナショナリズムに訴える政治家がもっとも国益を損ないます。歴史をふり返ると、ナショナリズムに訴える政治家ほど、国益を損なうというパラドックスが見られます。
私は難しい予想を当てたわけではありません。経済産業省や外務省の実務担当者も予想していた通りです。予想できなかったのは、安倍総理やその周辺だけだと思います。
あるいは日本企業の経済的ダメージを上回る政治的メリットがあると計算したのかもしれません(その場合は「愚策」ではないかもしれませんが)。支持率アップのために排外的ナショナリズムをあおるのは危険であり、無責任の極みです。
ある政府関係者の言う「愚策の極み」の結果として日本企業の強みが失われ、日本の半導体素材産業の国際競争力が低下しました。半導体素材に関していえば、「経済安全保障上の脅威は安倍官邸だった」ということになります。
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