私の核「非」武装論

今日(8月15日)は終戦の日です。大濠公園近くの武道館で開かれた福岡県主催戦没者追悼式に参加してきました。戦後75年がたち遺族の皆さんも高齢化し、「戦争を知らない世代」の高齢化も進みます。

戦争の反省と教訓を忘れ侵略の歴史を美化する歴史修正主義者が政界でも跋扈しています。自国の歴史の暗部から目を背けないことは、弱さではなく、強さだと思います。

そして歴史修正主義者の一部は、広島と長崎の悲惨な過去を忘れ、核保有論をもてあそびます。報道によると、「おおさか維新の会」の松井一郎代表(大阪府知事)は、「日本の核兵器保有の是非について議論すべき」という趣旨の発言をしたそうです。

ふつうに考えると、「核武装すべきでない」と考える人は「核兵器保有の是非について議論すべき」とは絶対言いません。「核兵器について議論すべき」という政治家は、たいてい核武装を望んでいるけれど、婉曲に言っているだけだと思います。

そもそも核兵器保有の是非を議論するだけでも、世界に対して悪いメッセージになります。トランプとプーチンが進める核軍拡に対し、日本はストップをかけるべきであり、自らの核武装を議論するのは論外です。

一部のタカ派はしばしば「平和ボケ」という言葉で非核論者を批判します。しかし、私は「日本が核武装すべき」と主張する論者は、国際政治の現実を見ていない「ボケ」だと思います。

以下に日本の核武装が現実的ではない理由を述べます。
専門的な議論ではありません。ごく常識的な議論だと思います。

1.国民が核保有を望んでいない。
核保有という大きな政策転換の前に民意を問うべきです。核保有の是非は、衆議院解散の大義として十分です。しかし、日本国民の多数派が核保有を望んでいるとは到底思えません。松井代表は政党の党首として選挙公約に核保有を堂々とかかげて選挙戦に臨んではどうでしょうか。民意に問うことなく核武装はできません。このハードルはとても高いでしょう。

2.核実験をどこでやるのか?
核兵器の開発には、核実験が必要です。すでに核を保有していてノウハウのある国は、コンピュータのシミュレーションだけで核開発ができるかもしえません。しかし、初めての核兵器開発であれば、コンピュータのシミュレーションだけでは不十分だと思います。原子力発電所の放射性廃棄物の最終処分場の建設さえ難しいご時世で、どこに核実験場をつくるのでしょうか? どこかの無人島でしょうか? 人里離れた原野でしょうか? それとも大阪府で核実験場を引き受ける用意があるのでしょうか? 核実験場を探すというハードルもきわめて高いでしょう。

3.核兵器の開発と保有の財源
核兵器の開発、保有、そして運用には莫大なお金がかかります。「核兵器は通常兵器に比べれば安上がりだ」という意見もありますが、私はそうは思いません。原子力発電所を建設するよりも高コストだと思います。GDPの1%程度の防衛費から通常兵器の予算を削減して、核兵器開発にあてるのでしょうか?
核弾頭だけではなく、運搬手段(大陸間弾道弾?)にもお金がかかります。潜水艦発射の核ミサイルを運用するのであれば、新たに潜水艦も最低3隻は建造して運用する必要があるでしょう。そういった予算もハードルになります。

4.アメリカの「核の傘」の消失
トランプ政権の間はいいかもしれませんが、その後の米国の新政権(おそらく民主党政権)が、核保有国の日本を引き続き「核の傘(拡大抑止)」で守ってくれるかどうかわかりません。いちばん危険なのは、核武装を決定してから核配備が完了するまでの数年間です。その間、(1)米国の「核の傘」がなく、かつ、(2)まもなく日本が核武装する、という移行期はハイリスクです。核武装を決めることで、かえって無防備になる恐れさえあります。

5.核兵器不拡散条約(NPT)体制の崩壊
核兵器不拡散条約(NPT)体制はすでに崩壊の危機にありますが、日本がとどめを刺すことになりかねません。世界中から批判されることでしょう。世界の平和を乱す当事者になり、国際社会で北朝鮮やイラン、シリアと同列に扱われるかもしれません。恥ずかしいことです。

6.東アジアの核軍拡の加速
日本が核保有すれば、おそらく韓国も核保有をめざすでしょう。中国やロシアも核軍拡を進める可能性が高いでしょう。東アジアの核軍拡を日本が加速することになります。核保有によって韓国と日本の軍事対立を招くことになれば、安全保障環境は悪化します。核武装することで安全保障環境がより悪化するのは皮肉ですが、おそらくそうなるでしょう。

7.NPT脱退による国際社会における孤立と経済制裁
核武装すれば、NPTから脱退し、国際社会の批判を浴びます。国連から圧力を受け、経済制裁を受けかねません。国連の「敵国条項」を忘れてはいけません。いま日本が北朝鮮に対してやっているのと同じことを、他国からやられるかもしれません。貿易立国の日本は、経済制裁を受けては生きていけません。太平洋戦争のきっかけは、いわゆる「ABCD包囲網」による経済制裁でした。愚かな歴史を繰り返してはいけません。

以上の7つ問題をすべてクリアするのは、おそらく不可能です。従って、核保有の実現可能性はゼロに近いと思います。結論としては、核「非」武装論こそが正しいと思います。核武装の是非の議論など必要ありません。核武装はムリです。