石油を輸入しない方がいい理由:平和のための省エネ・再エネ

火力発電やガソリン自動車の使用を減らし、化石燃料(石油、天然ガス、石炭)の輸入を減らした方がよい理由はいくつかあります。

第1に、化石燃料はCO2を排出するので、気候変動や大気汚染を防ぐため、化石燃料の使用は少ないに越したことはありません。

第2に、化石燃料の輸入には莫大なお金がかかります。日本人が一生懸命働いて稼いだお金が、化石燃料の輸入で国外に流出するのはもったいないです。石油価格の変動などもあり毎年変わりますが、ざっくりいうと日本は年間20兆円ほどを化石燃料の輸入にあてています。

GDPの約4%を化石燃料の輸入にあてているわけです。たとえば、省エネや再生可能エネルギーの普及で化石燃料の輸入を半分にできれば、そのぶん内需が拡大します。別のことにお金を使えるようになるわけです。

第3に、エネルギー安全保障という観点から、遠く離れた国から化石燃料を輸入することは望ましくありません。ペルシア湾やマラッカ海峡、インド洋、東シナ海で紛争が起きれば、化石燃料の輸入が難しくなり、エネルギー不足に見舞われます。石油の洋上備蓄基地などを整備してきましたが、それも限度があります。化石燃料に依存せず、エネルギー自給率を高めることが、安全保障上も重要です。

第4に、化石燃料を輸入している国のなかには、戦争の当事国もあります。日本がいちばん石油を買っている国はサウジアラビアです。イランからも石油を輸入しています。

サウジアラビアは世界の軍事費ランキングでいつも上位です。日本以上に米国製兵器を爆買いし、近隣国の紛争に介入しています。サウジアラビアは人口が3000万人超という中規模の国ですが、日本より軍事費の支出額が大きいです。

サウジアラビアは隣国イエメンの内戦に介入し、イランが支援するフーシ派(ホーシー派)を攻撃し、しばしば空爆を行って民間人にも多くの犠牲者が出ています。イエメン内戦は、国内の部族や宗教(スンニ派とフーシ派)対立に、サウジアラビアとイランが介入し、「国際化した内戦」となりました。

2015年に始まったイエメン内戦では、9万人以上が戦闘で亡くなり、そのうちのかなりの部分は子どもや女性です。さらに医療体制や食糧支援体制の崩壊で、1200万人が飢餓の危険にさらされ、国連は「世界最大の人道危機」と呼んでいます。シリア内戦に比べると、イエメン内戦は報道されることも少ないですが、危機の深刻さでは勝るとも劣らない危機です。

シリア内戦では、イランは直接的に軍事介入し、革命防衛隊等の実戦部隊を派遣しています。サウジアラビアもシリアの反政府勢力を支援し、間接的に介入しています。サウジアラビアとイランはシリア内戦でも紛争当事者です。

日本は、サウジアラビアとイランの双方と良好な関係を持ち、莫大な石油を輸入しています。日本からの石油収入の一部が、サウジアラビアやイランの軍事費に回り、イエメンやシリアの内戦に使われているといっても誤りではないでしょう。

紛争当事者に武器を売るのはもちろん問題ですが、紛争当事者に資金を提供するのも問題です。石油輸入の対価とはいえ、サウジアラビアとイランの軍事費になりかねないお金を日本から提供するのは避けるべきだと思います。まわりまわってイエメンの子どもたちや罪のない民間人の犠牲を生んでいる可能性が高く、可能であれば石油輸入を減らした方がいいと思います。

第5に、サウジアラビアから石油輸入を減らした方がよいもう一つの理由は、それが人権や民主主義の発展を阻害していることです。政治学者のマイケル・L・ロス教授(UCLA)が書いた「石油の呪い」(2017年、吉田書店)という本があります。

この「石油の呪い」という言葉は、先行する「資源の呪い」から来ていると思います。オランダで海底油田の収入が入りはじめた頃、石油輸出が好調であるがゆえに通貨が切り上がり、製造業の輸出が不振になり、むしろ経済発展を阻害しました。その事例から「資源の呪い」という言葉ができたのだと思います(私の記憶では)。

ペルシア湾岸にはいまだに首長国がいくつもあります。サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国など、経済的には豊かですが、人権や民主主義の点では問題のある国が集まっています。

石油収入で国家財政に余裕があると、国民にあまり課税する必要がありません。石油収入のおかげで教育や医療の無償化も容易です。税と政治は密接に関わっています。アメリカ独立運動のきっかけも税で「代表なくして課税なし」という言葉は有名です。税金を納める必要がないと、市民はあまり不満を政府にぶつけません。産油国では「課税してないから代表しなくていい」となりがちで、民主化の動きが鈍い理由のひとつです。

さらに産油国の国王や首長は、国民の歓心を買うために公園を整備したり、宗教的権威と結びついたりして、自らの地位を安定させようと努力します。サウジアラビア王家は王国創設時からワッハーブ派と結びつき、共存共栄で発展してきました。ワッハーブ派は厳格なイスラム教の一派なので、そこからイスラム原理主義テロが生まれるケースも多いです。

また潤沢な石油収入があると軍隊や警察(秘密警察)に多額の予算を割り当てやすく、国内の反対派(シーア派勢力、民主化運動、人権派ジャーナリスト等)の弾圧にも十分なリソースを割り当てられます。監視国家を維持するにはお金がかかりますが、その資金源が石油収入です。

石油収入がなくなれば、サウジアラビアやイランの他国への軍事介入も減るだろうし、国民にこれまで以上に課税する必要が出てくれば、民意を気にするようになるでしょう。今までよりも多くの税金を払う必要が出てくれば、国民は政府に強く意見をいうようになるでしょう。税金があがれば、黙っておとなしく政府に従うことは少なくなることでしょう。

長くなりましたが、省エネや再生可能エネルギー普及でCO2を削減することは、気候変動対策になりエネルギー自給率を高めるだけでなく、イエメンやシリアの内戦で犠牲になる人を減らすことにもつながります。平和のためにも、節電・再エネを心がけたいものです。