対イラン有志連合に参加しなくてよい理由

国務省等に勤務したヤクブ・グリギエル教授とトランプ政権で国務次官補を務めたA・ウェス・ミッチェル氏が、米国の安全保障政策について書いた「不穏なフロンティアの大戦略」という本を読みました。

著者は両者とも民主党系ではなく、共和党系の政策人材(研究者であり、かつ、国務省などで実務にも携わった人)です。著者たちは、米国の外交安全保障戦略における同盟国の重要性を強調します。

米国の同盟国がフロンティアで米国のライバル国と対峙することで、米国の防衛力の負担(+財政的な負担)が軽減され、米国主導の世界秩序が保たれていると主張します。トランプ政権の同盟国軽視の姿勢とあまりにも異なります。

本書には次のようなおもしろい記述があります。

 アメリカは前線の同盟国たちに対して、域外作戦のための技能やアセットではなく、領土防衛力を整備するように促すべきである。過去二十年間において、前線同盟国のほとんどは、自国から遠方の地で行われる多種多様な「有志連合」作戦への参加に熱心だった。ただしこれは、アメリカとの友好関係を明確に表明し、アメリカから安全を保障してもらうためであった。ワシントンは同盟国たちに対して域外作戦への参加ではなく、自国防衛に集中するよう要求すべきだ。

ここでいう「前線同盟国」とは、日本やポーランド、イスラエルといった国々です。著者の認識では、米国主導の現在の世界秩序に対して、「現状変更国」のロシア、中国、イランの3か国が挑戦しています。この3国に最前線で対峙しているのが、日本を含む「前線同盟国」です。

ポーランドやジョージア(グルジア)等のロシアと対峙する前線同盟国は、アメリカの戦争にけなげにつき合ってアフガニスタンやイラクでの軍事行動に参加しました。さいわい日本は安保法制改定前だったので米国の戦争に付き合わなくてすみました。現在、トランプ政権は日本を含む同盟国に「有志連合」への参加を呼びかけています。

しかし、著者たちは「有志連合にはしなくていいから、自国の防衛に集中しろ」と主張します。米国の安全保障コミュニティの専門家たちの意見は、トランプ政権の意向とちょっと違います。「アメリカの意向」などという言葉を使う人もいますが、米国の国内にも多様な意見があります。

著者ら2人は共和党系の色のついた安全保障専門家ですが、その人たちが「有志連合よりも自国の防衛へ専念しろ」といっているわけです。その意見は参考にしてもよいと思います。

日本は、ジブチにある自衛隊の恒久基地からさっさと撤退し、専守防衛に専念すべきだと思います。共和党系の著者たちも「日本は自国の脅威への対処に専念しなさい」といってくれています。ペルシア湾の有志連合に参加し、イランとの関係を悪化させる意味はありません。

日本はまずは専守防衛に専念しましょう。多くの自衛官は日本を守るために命を捨てる覚悟はあっても、ペルシア湾で米国の戦争に参加して死ぬ覚悟はできていないと思います。自衛官が命を懸けるのは、本土防衛と災害対応だけで十分です。日米同盟を維持し、自前の防衛力を整備しつつも、遠く離れた土地での戦力投射能力を持つ必要はありません。自国を守る能力を整えるにとどめるべきです。

*参考文献:ヤクブ・グリギエル、A・ウェス・ミッチェル 2019年 『不穏なフロンティアの大戦略』 中央公論新社