河野太郎外務大臣から頼まれて、外務省の招きで来日したカンボジアの超党派の若手政治家との意見交換会に参加しました。自民党の若手議員がひとりと立憲民主党から私が参加して1時間の意見交換を行いました。
日本は長年カンボジアの内戦後の復興開発や平和構築、民主化支援に力を入れてきました。私の古巣のJICAも長いことカンボジアに協力してきました。平和構築に関して重要な分野は、①選挙制度、②議会制度、③司法制度です。利害の対立を銃弾で解決するのではなく、投票(選挙)、採決(議会)、裁判(司法)で解決すれば平和になります。カンボジアの将来の政治を担う超党派の若手政治家に日本の選挙制度や議会制度、司法制度を理解してもらうのはよいことです。彼らの訪問先は、衆議院、台東区選挙管理委員会、最高裁などだそうです。
普段は激しく敵対しているカンボジアの与野党の若手政治家が、いっしょに行動する機会など、カンボジア国内にいたらほとんどないと思います。日本政府のプログラムの長所は、与党と野党の議員がいっしょに視察旅行をする点だと思います。
意見交換の場では、カンボジアは政党間の対立が激しい国なので、超党派のグループは少しぎこちない感じもありました。しかし、意見の異なる政治家たちが、いっしょに海外研修を受けながら、同じ釜の飯を食うことは相互理解のきっかけになります。また日本という異国の地で外国文化と接することで、カンボジア人同士の連帯感も生まれると思います。
外務省と河野大臣の意図は「日本では与党と野党で意見が異なっても話し合って平和的に政治を運営している」というイメージを売り込むことのようです。
カンボジアは、何十年も内戦が続き、その後も強権的な政治が行われています。民主的とは言い難い現状があります。だからこそカンボジアの若手政治家の皆さんには、与党と野党で紳士的に議論を尽くすことの大切さを知ってもらうことが大切だと思います。
こういう場面では、外務省の事務方が政治家に気を使って「ご発言メモ」みたいなものを用意してくれます。何を話してよいかわからない議員へのサービスです。この手のメモは、外交的に当たりさわりがなく、丁寧で美しい内容なのですが、短い時間を有意義に使うという観点では非効率です。今回の意見交換会のために外務省が用意したメモはこんな感じです。
- 訪日を歓迎。12月に続き、カンボジアの将来を担う若い皆さんをお迎えできて嬉しい。
- 近年、カンボジアは、著しい経済発展を実現していることを嬉しく思う。2016年に直行便が就航し、両国の距離は更に縮まった。友好65周年を迎えた昨年は、フン・セン首相の訪日を得て、両国関係を一層促進できた。
- 日本は、和平以来、カンボジアの開発と民主的発展の道を支えてきた友人として、カンボジアがそのような道を引き続き歩むことを望む。更に力強く国の開発を進めていくためには、全ての国民が団結することが必要。
- そのために、皆さんのような次世代リーダーが果たせる役割は限りなく大きい。これまでの世代が築いた日カンボジアの友好の絆を受け継いで、両国関係を更に発展させて頂けることを心より念願したい。
- 今回の訪日を通じ、ぜひ日本と日カンボジア関係についての理解を深めて欲しい。質問があれば、何でもお答えしたい。(了)
大所高所の観点にたった麗しいスピーチです。こういうスピーチの内容は、首相とか、外務大臣とか、えらい人が表敬訪問の場で言うのには適していると思います。しかし、カンボジアの若手政治家が知りたい情報、あるいは、こちらが知ってほしい情報は、あまり含まれていません。
役所のメモは無視して、そして社交辞令・外交辞令は一切はぶいて、次のように冒頭スピーチしました。
- 日本では与党と野党に分かれていても、議員同士の個人的な人間関係は大切にしている。たとえば、自民党の河野太郎外務大臣から頼まれて、この会に参加している。河野大臣と私は、自民党と立憲民主党とそれぞれ所属政党は異なっても、長いつきあいで、頼まれたり頼んだりということはよくある。与党と野党とに分かれていても信頼関係は成りたつ。
- 日本の国会では、野党にも一定の権限がある。国会の審議スケジュールは、基本的に与野党の合意で決まるので、野党が「拒否権プレーヤー」として重要な役割を果たす。政府与党が野党を無視して強引に国会を運営すれば、マスコミと世論が批判するため、政府与党も野党には一定の配慮をせざるを得ない。政府与党はメディアと世論を気にするので、野党にも配慮する。
- 野党の役割は二つ。第一の役割は、政府(行政)の監視。立法府の一員として行政府を監視する。大臣を含め政治家のスキャンダルから予算執行上の問題や行政の不正まで、さまざまな分野で国会が監視機能を果たしている。国会の監視機能に関しては、与党よりも野党が中心的な役割を果たす。
- 第二の野党の役割は、政府と異なる選択肢を示すこと。法律に関しては政府案に対する対案を出し、国政選挙の折には政府とは異なる政策パッケージを国民に示す。有権者に第二の選択肢を示すことが、野党の第二の存在意義である。
- 日本国憲法では、与党も野党もなく、国会議員は「国民全体の代表」として働くことが期待されている。自民党議員も立憲民主党議員も、政治思想やアプローチ、手段は異なっても、「国家と国民のため」という目的は共有していると信じたい。そう考えれば、与党も野党もなくお互いに敬意をもって国会で議論ができるはず。政治家が対立をあおって、社会の分断をつくることは許されない。
通訳を介した対話は、倍の時間がかかります。1時間の意見交換といっても、事実上は30分の内容ということになります。また、基本的な用語についても説明する必要があり、日本人なら当然知っているような用語でも、丁寧に説明する必要があります。したがって、極力ムダなことは言わず、本当に伝えたいテーマだけに絞って説明しました。
おそらく河野大臣が望んでいたポイントは、「国会議員には与党も野党もない。国民全体の利益のため与野党で紳士的に議論しているのが日本の国会である」ということだと思います。カンボジアの平和のために、安倍政権批判は控えて、「うるわしい与野党協調の国会像」を演出しました。この程度の印象操作は、平和のために許されるかなぁと思っています。