日本と韓国の出版事情のちがい

徴用工問題などで日韓関係は悪化しています。しかし、政治・外交的に関係が悪化していても、その他の面では交流は続いています。二国間である問題が生じたからといって、二国間のすべての交流を断絶する必要はまったくないし、問題が生じている時期こそ、他の分野で関係を強化すべきだと思います。二国間の感情的なもつれがある時期でも文化交流や人的交流は継続させるべきだと思います。

そんな思いで、私も徴用工問題で世論が沸騰している昨年11月にソウルを訪れました。韓国側の親日派も困っていました。日本政府や日本の一部のメディアや政治家が韓国をたたけばたたくほど、韓国人の親日派の肩身が狭くなる一方です。日本の国益のためにも無用な批判は避け、冷静な言動が求められます。

そんな中で日韓の出版事情をみると心が痛みます。昨年末の報道によると、韓国の書籍販売調査(小説分野)で、日本人作家の小説のシェアが31.0%で、韓国小説の29.9%を抜いて首位になったそうです。東野圭吾や村上春樹の小説が人気とのこと。韓国人の多くは、日本に興味を持ってくれています。村上春樹が好きという韓国人は、おそらく反日的な意図をもって村上春樹の著書を購入しているわけではないと思います。

他方、日本で韓国がらみの書籍といえば、いわゆる「嫌韓本」がベストセラーリストに入り、とても恥ずかしい状況です。目次を見ただけで内容の浅さと不正確さ、醜悪さがすぐわかるようなヘイト本が売れているのは、義務教育段階における歴史教育の失敗だと思います。

政治的には日韓関係は悪化していますが、韓国人の多くは文化的には日本を好きだと思います。2017年には714万人の韓国人が日本を訪れました。韓国の人口が5,100万人であることを考えると、かなり高い割合です。それに対し、韓国を訪れる日本人は年間300万人程度です。

韓国では高校生が第二外国語を学ぶことが多いのですが、日本語を選ぶ高校生の数は多く、ソウルのスターバックスでバイトしている若い子が日本語でオーダーをとってくれるといった光景はめずらしくありません。それに対して日本人で韓国語を学ぶ人がどれくらいいるでしょうか。

偏狭なナショナリズムは必ず国益を害し、平和や友好への障害となります。学校教育の段階で隣国を正確に客観的に見るトレーニングが必要だと思います。そのための歴史や地理だと思います。日本人も韓国の政治や外交以外の側面を知る努力が必要だと思います。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」といいます。韓国は別に敵ではないですが、敵であろうと味方であろうと、隣国のことをよく知ることは大切です。韓国を敵視している人こそ、韓国のことを知るために客観的に書かれた本を読むべきです。「韓国ヘイト本」を読んでいる人たちは、くもったレンズ・ゆがんだレンズで韓国を見ています。いいかげんな内容のヘイト本ではなく、客観的なデータに基づく本や学術的な本を読んで韓国のことを勉強してほしいと思います。そして余裕があれば、韓国の文学や現代文化の本も読んでみたらよいと思います。相手のことをよく知らないのに、相手を批判するのは無益です。今こそ韓国について正しく知ることが必要な時期だと思います。もうちょっと日本でもヘイト本以外で韓国について書かれた本が売れるようになればよいと思います。