北朝鮮と安倍総理

北朝鮮と安倍総理は切っても切れない関係です。安倍総理が出世したきっかけは、小泉総理の北朝鮮訪問時の拉致問題への対応だったと思います。安倍総理の拉致問題への真剣な取り組みには敬意を払いますが、それ以外の問題への取り組みには疑問も多いです。

たとえば、安倍総理は北朝鮮の脅威を強調し、危機感をあおるのが得意技になっています。昨年秋の総選挙では、今にも朝鮮半島で戦争が起きそうだと危機感をあおり、「国難突破解散」と叫んでいました。このところの中朝首脳会談、南北首脳会談、そして近日中に行われる米朝首脳会談を思えば、昨年秋(わずか半年ほど前のことです)の「国難突破解散」は何だったんだろうと思わずにはいられません。

昨年(2017年)9月15日には北朝鮮がミサイルを発射した折、安倍政権は必死になって危機感をあおり、全国瞬時警戒システム(Jアラート)を鳴り響かせ、国民の警戒感をかき立てるために大騒ぎしました。政府は「北海道上空を通過」と発表しましたが、実際には「火星12」の最高高度は750キロメートルに達し、「上空」というより、「宇宙空間」と呼ぶ方が適切な高度です。人工衛星が周回している領域であり、日本の「領空」にはあたりません。

さらに「襟裳岬の東、2200キロメートルの太平洋上に落下した」という表現も問題です。これだけ聞くと、北海道の近くにミサイルが落ちたような印象を受ける人も多いことでしょう。たとえば、襟裳岬の2200キロメートル南には沖縄本島があります。東京から石垣島までがだいたい2000キロメートルです。東京に住む人の多くは、石垣島より遠いところにミサイルが着弾したからといって大騒ぎしないと思います。襟裳岬の東へ2200キロメートルの地点だったら、アリューシャン列島かミッドウェー諸島の方が近いと思いますが、アメリカ国民が騒いだという報道は見たことがありません。

襟裳岬の東2200キロメートルの洋上にミサイルが落下することを計算できていたとすれば、Jアラートは必要なかったわけです。安倍総理は「発射直後からミサイルの動きを完全に把握していた」と断言していましたが、だとすれば無駄なJアラートでした。ミサイルの落下地点を含めて「完全に把握していた」なら警戒は不要だったはずです。単に国民に不安感を覚えさせることが目的であったと邪推せずにはいられません。

そして北朝鮮がミサイルを発射した日(2017年9月15日)に安倍総理は臨時国会の召集を決めました。その臨時国会の冒頭で、所信表明演説や代表質問も一切行わず、いきなり衆議院を解散しました。「国難突破解散」と称して。

安倍総理が北朝鮮危機を演出して選挙に勝利したのは以下の手順でした。

1)北朝鮮がミサイルを発射。(9月15日 午前7時)

2)無駄にJアラートを発して国民の危機感をあおる。(9月15日)

3)臨時国会の開会を決める。(9月15日)

4)臨時国会冒頭で衆議院を解散する。(9月28日)

5)衆議院選挙で圧勝する。(10月22日)

麻生財務大臣が選挙直後の10月26日に「明らかに北朝鮮のおかげもある」と発言したのは、きわめて正直な感想でした。もっとも「それを言っちゃあ、おしめえよぉ」というレベルの失言でした。自民党政治家の多くの本音だったと思います。安倍総理は、北朝鮮の危機をあおることで、衆議院選挙に圧勝しました。しかし、このところの朝鮮半島の緊張緩和という場面で、これまでの圧力一辺倒路線のツケが来ています。

昨年9月20日の国連総会で安倍総理は、「対話による問題解決の試みは一切が無に帰した」とか、「必要なのは対話ではない。圧力なのです」とか発言していました。いま読み返すと日本国民として恥ずかしくなります。安倍総理の見通しの甘さにはあきれるほかありません。安倍総理が自らのメンツを守るためだけに朝鮮半島の融和モードに水を差さないことを願わずにはいられません。

*参考文献:半田滋著、2018年「北朝鮮の脅威のカラクリ」岩波書店

*ご参考:2017年8月2日付ブログ「北朝鮮経済制裁と対話への決断」

北朝鮮経済制裁と対話への決断
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