日本ではミャンマーの「ロヒンギャ」問題はあまり知られていないかもしれませんが、日本にとっても他人事ではなく、日本としても積極的に問題解決に動くべき課題です。まずロヒンギャ問題の概要を箇条書きします。
1.ロヒンギャはミャンマー(ビルマ)西部のラカイン州に暮らすイスラム教徒の少数民族。ラカイン州の人口の15%ほどがイスラム教徒とされる。国境を挟んでバングラデシュにもロヒンギャの人たちは多く暮らす。ロヒンギャの人口は正確な数字は不明であるが、80~130万人と推計される。
2.仏教徒が多数派のミャンマーにおいては、イスラム教徒のロヒンギャは迫害を受けて来た。ロヒンギャは、ミャンマー政府から国民として認められていないため、国籍やパスポートもない。
3.近年でも2012年に大規模な反ロヒンギャ暴動が発生し、国内避難民や難民として多くのロヒンギャの人たちが避難を強いられた。いまもミャンマー国内や隣国バングラデシュの難民キャンプの劣悪な環境での避難生活を余儀なくされている。海路でマレーシアやインドネシアに避難しようとするロヒンギャの人たちもいる。いまも仏教徒過激派の暴力やミャンマー政府の弾圧が続いている。
日本がロヒンギャ問題に取り組むべき5つの理由があります。
1.日本には、第二次世界大戦中にロヒンギャとミャンマー人多数派の仏教徒の抗争をあおった責任がある。植民地の宗主国であるイギリスはミャンマーのキリスト教徒やイスラム教徒の部族に武器を供給する一方で、日本は多数派の仏教徒勢力に武器を供給し、ミャンマー国内の騒乱のタネをまいた。その影響が戦後も残った。
2.日本はミャンマー政府とは良好な関係にある。仏教徒が多数派を占める日本は、ミャンマーの多数派から信頼を得やすい。同時に、近隣のイスラム教国のバングラデシュやマレーシアとも良い関係にある。当事国のミャンマーとも近隣国とも良好な関係にある日本は、中立的な調停者の立場に立ちやすい。
3.仏教徒の過激派のなかには「ミャンマーのビン・ラディン」と呼ばれるような暴力的な仏僧もいる。こういった仏教徒過激派のテロを放置しておけば、イスラム教過激派のテロを招くことになる。憎しみの連鎖を止めることが、イスラム原理主義テロ組織の拡大を阻止することにつながる。
4.日本が仏教徒過激派の迫害を受けるイスラム教徒を保護することに力を尽くせば、イスラム諸国の信頼を得られる。穏健なイスラム教徒や世俗的イスラム教徒との連携こそが、日本の外交力強化に役立つ。
5.ミャンマーでのロヒンギャ迫害をやめさせ、平和構築の実績をつくることができれば、これこそ本物の「積極的平和主義」である。公平中立な立場で平和構築・紛争調停に貢献することこそ、日本にふさわしい国際貢献である。経済外交だけではなく、平和外交で世界に評価されることが、日本のソフトパワーを強化する。
具体的には、(1)ロヒンギャ難民への人道支援から始め、(2)仏教徒過激派の暴力を止めるようにミャンマー政府に働きかけ、(3)国際的な監視の枠組みを提案すべきだと思います。ロヒンギャ難民だけに支援を限定すれば、難民キャンプ周辺の住民との格差も生じかねません。同時並行で(4)周辺住民(多数派の仏教徒を含む)への開発援助も実施した方がよいでしょう。
アセアンの大国であり、かつ、イスラム教徒が多数派のインドネシアなどと連携しながら、日本がイニシアチブをとってミャンマー政府に働きかけるべきです。インドネシアのアチェ紛争の調停には、フィンランドのような北欧の小国が関わりました。北欧の小国にできることが、アジアの大国の日本にできないとは思いません。ロヒンギャ問題は日本政府として取り組むべき重要テーマだと思います。いつの日か外務大臣になって、こういう問題に取り組みたいものです。