急に、安倍総理が真珠湾に行ってオバマ大統領と会うことになりました。それ自体はよいことですが、背景にうさん臭いものを感じます。日露交渉の成果が乏しそうなので、それをごまかすために、真珠湾訪問で支持率アップを狙うつもりなのでしょう。いよいよ年明け解散総選挙の説がもっともらしく見えてきます。
そもそも安倍外交は、うまく行っているのでしょうか?
最近では、就任前の大統領予定者のトランプ氏と安倍総理との会談は、前例のないことでした。それについて自画自賛する向きもありますが、やはり問題だったと私は思います。現職のオバマ大統領が不快感を示していたことが明らかになりました。勝ち組に乗ろうとあせるお調子者が、国際社会で尊敬されるとも思えません。軽く見られるだけだと思います。
ドイツのメルケル首相の毅然としたコメントがうらやましく思います。「熊谷徹のヨーロッパ通信」というサイトから引用させてもらいます。
メルケル首相は祝辞の中で、まるで学校の教師が生徒を教え諭すように、ドイツが重んじる価値を並べ上げた。「ドイツにとって、EU以外の国の中で、米国ほど共通の価値によって緊密に結ばれている国はありません。その共通の価値とは、民主主義、自由、権利の尊重、全ての個人の尊厳を重んじることです。人権と尊厳は、出身地、肌の色、宗教、性別、性的な嗜好、政治思想を問うことなく守られなくてはなりません」。
メルケル首相がこれらの言葉によって、わざわざ「性別、宗教や肌の色、同性愛者か否かで人間を差別してはならない」と指摘したのは、トランプ次期大統領が選挙運動の期間中に、女性、メキシコ人、イスラム教徒、同性愛者を蔑むかのような発言を繰り返してきたことに対する、暗黙の批判である。
メルケル首相ほど辛辣な祝辞でなくてもいいですが、トランプ氏の選挙中の差別的な発言を思えば、「信頼できる指導者と確信」とまで言う必要があるか疑問です。トランプ氏が選挙公約を誠実に履行するとまずいことが多々あります。メキシコ国境に壁ができたり、イスラム教徒の入国が制限されたりと、国際社会の反発を浴びそうな公約を実行に移すと、日本政府としても賛同しにくい状況になります。トランプ氏が有言実行の人でないことを、祈っている人が世界中にいることでしょう。
安倍総理の仲良しの首脳は、独裁的なリーダーが多いようです。安倍総理と仲が良いロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、インドのモディ首相は、それぞれ国内の人権問題や独裁的手法で批判されています。トランプ氏も同じ系列だと思います。
トランプ氏がTPPからの離脱を表明し、安倍外交とアベノミクスの柱のひとつが折れてしましました。これまで米国と欧州はロシアに経済制裁を課しており、日本の経済協力には大きな期待がかけられていました。しかし、トランプ政権になって米国が経済政策から外れれば、ロシアにとっての日本の利用価値は下がります。日露交渉の成果は期待薄です。
フィリピン海軍に海上自衛隊の航空機を貸与する話が進んでいますが、ドゥテルテ大統領のもとでフィリピンと中国の関係がよくなれば、「中国牽制のためのフィリピン海軍の強化」という趣旨がぼやけてきます。ベトナム向け原発輸出はキャンセルになり、豪州への潜水艦輸出には失敗しました。北朝鮮の核開発は止められず、対中国、対韓国の関係改善も進んでいません。
安倍外交は世界中で行き詰まっていますが、なぜか安倍総理は意気軒高で自信満々です。確かに外遊して経済協力を約束すれば、どの国でも歓迎してくれることでしょう。長期政権になり外遊回数が増えてくれば、顔見知りの数も増えて歓迎してくれることでしょう。しかし、それが日本の国益や国際社会の平和と安定に役立っているかといえば、かなり疑問に感じます。
また、ODA予算はほとんど増えていないのに、安倍総理は海外でドンドン経済協力を約束しています。要するに、無償の人道援助よりも、貸し付け(円借款や融資等)が多いということだと思います。貸し付けがいけないとは言いませんが、貧困対策や人道支援ではなく、工業インフラ等が中心になるため、恩恵をこうむるのが富裕層や都市部に偏る可能性が高いです。ODA政策については、自国の国益(市場や資源の確保)が前面に出ており、1970年代のODA政策に逆戻りし退化しています。
惨憺たる安倍外交ですが、本人は自信満々で、メディアもあまり批判しません。支持率の高い政権は、メディアも批判しにくいのか、それともメディアに対する締め付けが効いているのか、よくわかりません。しかし、時間がたてば「安倍外交は不毛だった」と歴史が評価すると思います。