現職衆議院議員時代は毎年12月末に「今年読んだ本ベスト10」をブログで発表し、意外と好評でした。今春から福岡3区で政治活動を再開したので、2年ぶりに再開します。
以前は国会図書館という「日本最強の図書館」で好きなだけ本を借りられたので、ハードカバーの本や学術書も読みやすかったのですが、浪人中のいまは福岡市図書館しか利用できません。近くの市立図書館は、新刊は予約してもなかなか借りられないし、古い本も数が少ないし、借りに行ったり返却に行ったりも面倒です。
また、浪人中で予算的制約もあることから、新刊はほとんど買いません。結果的にブックオフの「100円コーナー」で売っている新書本が中心になってしまいました。しかし、日本の「新書文化」はたいしたものです。ロンドンに住んでいたときに本屋や古書店によく行きましたが、日本の新書に相当するカテゴリーの本(ペンギンブックスの「ペーパーバック」等)はそんなに多くありません。日本の新書文化は、おそらく世界一発達しています。
もちろん新書も玉石混交ですが、中公新書や岩波新書、講談社現代新書等はそれなりの水準を維持しているものが大半です。学者やジャーナリスト、実務家が、簡潔に要点をまとめていて情報量も多く、それぞれの政策テーマの入門編としてはすぐれています。最先端のテーマを扱っている本が多いのも、新書の特色だと思います。
ただ、昔の新書と今の新書を比べると、だいぶ字が大きくなり、スカスカになっていることに気づきます。昔の新書の方が、水準が高かった気がします。それでも新書のレベルが高いことに変わりはありません。それに岩波文庫、岩波現代文庫、ちくま学芸文庫等の文庫本も水準の高いものが多いです。最新のテーマに関しては、岩波ブックレットのような薄い本も便利です。
そういう言い訳は置いておいて、今年のベスト10冊をご紹介させていただきます。
1. 井手英策、古市将人、宮崎雅人 2016年 『分断社会を終わらせる』 筑摩選書
格差による日本社会の分断を終わらせるには、税と社会保障のあり方を見直すことが重要です。その方向性について書かれた本ですが、中心人物の井手英策氏は、いまや民進党の政策の理論的支柱になりつつあります。増税から逃げずに、再分配機能の強化と現物給付(介護や保育等のサービス提供)の充実が必要であることを説きます。今年の一押しです。詳細は以前書いたブログをご参照いただければ幸いです。
2. 佐藤優 2015年 『知性とは何か』 祥伝社新書
安倍政権の反知性主義的な特色、“post-truth” 時代の政治を読み解くのに役立つ本です。詳細は以前書いたブログをご参照いただければ幸いです。
3. 橘木俊詔、参鍋篤司 2016年 『世襲格差社会』 中公新書
格差の固定化について書かれた本。世襲政治家の弊害についても触れられており、興味深いです。詳細は以前書いたブログをご参照いただければ幸いです。
4. ジョセフ・E・スティグリッツ 2016年 『スティグリッツ教授のこれから始まる「新しい世界経済」の教科書』 徳間書店
世界中でこの30年間の誤った経済政策のために、中間層が激減し、貧富の格差が広がる二極化現象が進んでいる点をわかりやすく説きます。そして中間層をもう一度再生するための具体的な処方箋を示します。とてもわかりやすい言葉で書かれ、アメリカ向けの処方箋ですが、日本でも通用しそうな政策提言が多いです。
行き過ぎた自由化の問題点を明らかにし、労働者の権利保護、金融セクターの規制強化、所得再分配機能の強化等の具体策を説きます。複雑な問題をこんなにわかりやすく説明している本は珍しいです。
著者のスティグリッツ教授はノーベル経済学賞受賞です。書店で売れている経済本の中には、「日本経済は世界最高!」みたいなトンデモ本も多いですが、正統な経済学を研究した人が書いた本は安心感があります。
5. 保阪正康 2010年 『田中角栄の昭和』 朝日新書
私は「田中角栄礼賛本ブーム」が理解できません。冷静に実績だけを見れば、田中角栄政権の政策は、禍根を残したものが多いです。日中国交正常化といった外交面では実績をあげました。しかし、日本列島改造論で公共事業をバラマキ、老人医療費を無料にし、高度経済成長の残像を引きずって狂乱物価を招きました。今にいたる問題の原型をつくった首相です。
その田中角栄氏の実像に迫る本です。身近な人たちにとって人間的魅力があっても、長期の国益を損なう首相だったと思います。とても名宰相とはいえません。ロッキード事件のような疑獄事件を無視して純粋に政策だけを評価しても、やはり水準以下の首相だったといえるでしょう。もし周囲に「田中角栄みたいな政治家が今の日本に必要だ」と主張する人がいたら、この本をお薦めしてみてはいかがでしょうか。
6. エマニュエル・トッド 2015年 『ドイツ帝国が世界を破滅させる』 文春新書
学生時代に「人口学」や「文化人類学」というマニアックな授業を選択して以来、人口動態や人類学的な発想に興味があります。エマニュエル・トッドは、フランスの歴史人口学者・家族人類学者です。それだけで私のストライクゾーン真ん中。
トッドはいつもユニークな視点で世界の大きな流れを見事に予測してきました。人口動態からソ連の崩壊を予測し、高学歴化と若年人口の急増から「アラブの春」を予測しました。最近では数年前からイギリスのEU離脱を断言し、見事に予測を的中させました。
そのトッドが、EUとその中核の「ドイツ帝国」を分析します。さらりと読めて知的興奮を味わえる良書です。EUを知るには良い本です。
7. 吉田徹 2016年 『「野党」論』 ちくま新書
私にとっての重要テーマは、「民進党はどうあるべきか」「民進党は何をめざすべきか」という点です。野党第一党の民進党のあるべき姿を考えようと思って手に取った本です。尊敬する畏友の吉田徹教授は、フランスを中心とするヨーロッパ政治の専門家です。
吉田さんは「政党自らが民意を作り出す努力をしなければならない」と言います。政治家や政党が「民意に従う」という側面も大事です。しかし、同時にまったく新しい課題に直面したときにいち早く問題に気づき、解決策を創造して国民を説得し「民意を作り出す」という側面も大事だと思います。人気取りではなく、新しい解決策を創造する積極性が、今の民進党に求められていると思います。
8. 鳥飼玖美子 2010年 『「英語公用語」は何が問題か』 角川ワンテーマ新書
まじめに英語を勉強したわりに、英語がさほど上達しなかった私が、「英語公用語化は問題だ」と主張しても説得力がありません。しかし、英語教育専門家の鳥飼さんがそれを主張すれば、説得力があります。
私はフィリピンの大学に留学したことがありますが、フィリピンでは旧宗主国の言葉である英語が公用語でした。グローバル化時代の現在、公用語の英語のおかげで利益を受けるフィリピン国民も多くいる一方で、不利益を被るフィリピン国民(特に貧困層)もそれ以上に多いと感じます。日本をフィリピンのようにしてはいけないと思います。母語を大事にすべきです。言語は思考そのものです。そして外国語の能力が、母語の能力を超えることは通常ありません。母語以外で議論をすれば、議論の質が下がります。英語を公用語にしてみずから進んで「英語帝国主義」の植民地になるべきではありません。日本語を大事にした方がよいと思います。
9. 神野直彦 2013年 『税金 常識のウソ』 文春新書
財政学者の神野直彦氏が書いた本ですが、これまでの常識を覆すような内容が多く、興味深く読みました。タイトルは軽いですが、ハードカバーにしたら大学の講義で使えるような硬派の本です。1990年代以降の税制改正(法人税や所得税の減税)が、いかに税収減につながり、再分配機能の低下と格差拡大につながったかが、よくわかります。読み応えのある本です(=ちょっと硬くて読みにくい本です)。しかし、現在の日本の財政構造や税制の問題点を知る上では、とても良い本です。これも100円(消費税込みで108円)で買いました。
10. デービッド・アトキンソン 2014年 『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』 講談社+α新書
投資銀行等に勤務したイギリス人のアナリストが、日本の文化や観光について書いた本です。読みやすくて元気の出る本です。カジノに頼らなくても、日本の伝統文化や芸術に力を入れ、外国人観光客の誘致に力を入れれば、成長の余地があると思います。とても読みやすくておもしろい本でした。観光庁長官またはそのアドバイザーにしたい人物です。