共同通信社の電話世論調査によると、自民、公明、おおさか維新の会などの「改憲勢力」は、参議院の3分の2の議席に届く見込みです。自民党は60議席前後で、参院で単独過半数となる見込みです。安倍政権の勢いは続いています。
自民党はアベノミクスの成果を喧伝していますが、国民はだまされていません。世論調査では「景気回復の実感がない」と答える人が多いです。外交は、外遊回数がやたらと多くて派手ですが、場当たり的で勢いやパフォーマンスだけです。中国の挑発が増え、北朝鮮のミサイル実験も止まらず、日本を取り巻く国際環境が改善したとは言い難いです。「集団的自衛権で抑止力の向上」という説明は、今となってはまったく説得力がありません。安倍政権が高支持率を維持しているのは、成果を上げているからではなさそうです。
小泉元総理の高支持率を支えたのは、国民的人気でした。小泉政権の政策や理屈ではなく、小泉元総理個人の「キャラ」に対する支持だったと思います。安倍総理は、小泉元総理のような人気があるようには思えません。安倍総理を積極的に支持しているのはイデオロギー色の強い右派が中心のように思いますが、右派はそんなに多数派でもなさそうです。
それなのに安倍政権が高支持率を維持しているのが、私にとっては不思議でなりませんでした。その謎に対するわかりやすい説明に出会いました。感覚的に納得できる説明です。長くなりますが、一部省略して引用します。
テレビや新聞で報道されたニュースが真実かどうか、インターネットなどで情報を探し、図書館で資料を調べて確認することは可能だ。しかし、われわれが毎日入手する情報は各人が検証できる量をはるかに超えており、それではいくら時間があっても足りない。
ここから、「とりあえず自分に理解できないことがあっても、必要なときは誰かが自分に説明してくれるだろう」という順応の気構えが生まれる。テレビのワイドショーのコメンテーターは、政治経済、外交、殺人事件から芸能ゴシップ、さらに健康食品の効果など森羅万象について説明してくれる。まさに順応の気構えに対応する役割を果たしているのだ。その前提には、「テレビに出ている人なら信頼できる」という認識がある。信頼とは、複雑な世の中を理解するエネルギーと時間を削減するメカニズムなのだ。
(中略)
国民はワイドショーのコメンテーターや新聞に出てくる有識者を一度信頼すると、その後、多少裏切られるような事態が生じても信頼し続ける。信頼が裏切られたことを認めると、「こんな人を信じてしまった自分が情けない」と惨めな思いをするからだ。
安倍政権の経済政策は富裕層の所得を増やしているが、圧倒的多数の国民の生活は向上していない。外交政策は場当たり的で、日本の国際的地位は日に日に低下している。国民もそのことに薄々気づいてはいるが、認めると惨めになるので、とりあえず安倍政権を消極的に支持している。しかし、安倍政権の失政がある閾値を超えて国民の信頼を失うと、自民党は国民から忌避されるようになる。
*佐藤優 2016年「佐藤優選 自分を動かす名言」青春出版
安倍政権の失政は、まだ「ある閾値」の手前なのかもしれません。過去に安倍自民党に投票した人たちが「こんな政権を支持してしまった自分が情けない」と実感するまでには、もう少し時間がかかるのかもしれません。
イギリスのEU離脱を受けて円高が進み、アベノミクスの1本目の矢が折れました。株価も低迷しています。デフレ脱却の失敗や実質賃金低下は、もはや隠しようがなくなってきました。そろそろ「ある閾値」を超えそうです。あとで振り返ると「2016年6月のイギリスEU離脱決定が、安倍政権の終わりの始まりだった」と評価されるかもしれません。
民進党も今のうちから考えておくべきことがあります。安倍政権が「ある閾値」を超えて政権の座から降りた後に、民進党が代わって政権を担える政党になっておく必要があります。単に「棚ボタ」的に政権の座に座れると思ったら大間違いです。おそらく自民党は伝統の「党内政権交代」を狙って、新しい総裁を選んでイメージ一新を図ることでしょう。政権の座にいるためなら何でもやるのが自民党です。早いうちに「民進党に政権をまかせても大丈夫」と国民に思ってもらえる政党に成長しなくてはいけません。
参院選後の民進党の最大の課題は党改革だと思います。政権政党にふさわしい組織づくりや政策づくりが求められます。政権担当能力や党内ガバナンスの向上に向けて、思い切った党改革を実行しなくては、民進党への信頼は生まれません。