総選挙をきっかけにSDGs推進を!

日本における「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉の認知度が約9割に達しています。他方、日本のSDGs達成度は167カ国中18位ですが、SDGsの17の目標のうち気候変動対策、ジェンダー平等など5つの目標が「最低」の評価を受けています。認知度は上がったが、目標達成には近づいていない、というのが現状です。

SDGsを達成できない理由のひとつが、政府あるいは政治の消極性にあります。2015年にSDGsがスタートして以来、政府はSDGsを「日本の問題というより、発展途上国の問題だ」と見なしてきた傾向が強いです。歴代総理の国連総会発言では、日本のウクライナやパレスチナへの援助が紹介され、いかに発展途上国のSDGs達成に日本が貢献しているかが強調され、日本国内には貧困や人権などの問題が存在しないかのようです。日本が得意な分野のSDGsの事例を華々しく紹介し、深刻なSDGsの問題は無視してきました。SDGsの第一の目標は貧困であり、国際的に最も重視される目標です。しかし、歴代総理は国内の貧困に言及しませんでした。

政府のSDGs推進体制を見ても、外務省が中心になって事務局を担い、環境省や文部科学省などいくつかの省庁は熱心ですが、多くの国内官庁はお付き合い程度にSDGs推進本部に参加しているように見えます。各省庁が紹介するSDGs事例は、既存の事業をSDGsに関連付けてリスト化しただけのものです。骨太方針のような国家戦略にSDGsの文言が出てくることもまれです。

政府の消極性は問題です。SDGs達成には、経済の仕組みの大転換が必要であり、大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムから脱却せざるを得ません。その大転換を促す主体は、規制や税制を司る政府です。

新型コロナウイルス感染が拡大した2020年にアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は約100億ドルを寄付しました。同じ年にトランプ大統領はコロナ対策に約3兆ドルを支出しました。どちらが人間的に立派かはともかく、どちらがインパクトがあるかは明らかです。政府の問題解決力はきわめて高いです。より良い政府をつくることが、SDGs達成への一番の近道といえます。

日本でSDGsが達成できないのは、政府とそれを率いる政治家に問題があります。他方、解決策も政府と政治に求めるしかありません。民主的に選ばれた政府には正統性があり、政府には規制や徴税を行う強制力があり、そして政府にはノウハウや情報とマンパワーがあります。規制や税制は、環境保全や脱炭素化、人権保護に直接的に影響します。政府が取り組めば、温室効果ガス排出や有害物質投棄などを効果的に抑制できます。SDGs達成の最大のカギは政府です。

国民主権の日本で政府のオーナーは、納税者であり有権者である市民です。政府のトップである内閣総理大臣は、有権者が選んだ衆議院議員の中から選ばれます。一人ひとりの市民がSDGsの視点で政治家を選び、政治に対して声を上げれば、政治は変わり、政府は正しい方向へ動き始めます。

市民が政治を動かすことが、SDGs達成につながります。そのための手段として、選挙や街頭でのデモ、署名活動、政治家や政党への働きかけがあります。参加する人数が多くなれば、それだけ効果は大きくなります。政治家は意外なほど地元選挙区の有権者の声を聴きます。10~20人と集まって国会議員の地元事務所に面会を申し込めば、議員本人か秘書が会ってくれることも多いです。そこでSDGsに関わる課題に対する議員の考え方を尋ねたり、政策提言を手渡したりといった行動が、少しずつ国会議員の意識を変えていくことも多いです。

「市民が政治家を教育する」ことは、意外と重要です。国会議員は、官庁の情報やメディア経由の情報に接する機会は多いですが、市民団体の声に接する機会はそれほど多くありません。国会議員というのは会ってみると、ふつうのおじさん・おばさんである例が大半です。そんなに何でも知っているわけではありません。人権や環境保全などSDGsに関わるあらゆる課題を詳しく知っている国会議員は少ないです(たぶんいません)。SDGsのこともきちんと理解していない議員が大半といってもよいでしょう。市民が働きかけるとことで、政治家が学ぶというケースは案外多いと思います。

特に市民がまとまって行動すると効果的です。選挙時にSDGsのアンケートを議員に答えてもらったりSDGsに関わる要望を伝えたりすることで、当選後の議員の行動を変えるきっかけになることもあるでしょう。

もちろん投票行動でSDGsを推進する議員を応援することも重要です。一般社団法人SDGs市民社会ネットワークは、参議院選挙前の2022年6月23日に「SDGsに関する政党アンケート結果」をホームページで公開しています。今回(2024年10月27日投票)の衆議院選挙においても、同法人が政党アンケートを実施しており、投票日までにはホームページで公開予定でず。その結果もインターネットで見ながら、今回の総選挙の投票先を検討してみることも、SDGs達成に向けた一歩になるかもしれません。選挙は社会をかえるチャンスです。