経済学者の野口悠紀雄氏の「円安が日本を滅ぼす」という本におもしろいデータがありました。東京大学における農学部のウェイトが非常重いそうです。特に大学院に限っては東大全体の一割近くが農学部だそうです。
日本の国内総生産に占める農業の割合は0.9%で、総就業者に占める農業従事者の割合は2.0%です。しかし、東京大学の学生に占める農学部の学生の割合は7~8%で、コンピュータサイエンスを学ぶ学生の4倍だそうです。東大でコンピュータサイエンス専攻の学生が、農学部の学生の4分の1。ちょっと疑問を感じます。
農業が大切ではないとは言いません。しかし、東大卒の農家は多くないと思うので、農業従事者を増やそうと思ったら東大の農学部を強化するよりも、農業高校や農業の職業訓練校を増やす方が有益です。また農学部といってもバイオテクノロジーのような最先端の研究をしている学者や学生も多いので、むかしの農学部のイメージで語るのは間違いかもしれません。しかし、そういった要素を含めてもやはり農学部の大学院生が、文系も理系もあわせた東大の院生の1割というのは多すぎる気がします。
ちなみにシリコンバレーをつくったといってもよいスタンフォード大学は、工学部の学生の3割がコンピュータサイエンス系の学問を専攻しています。
安倍政権下で文部科学省は、大学の人文社会科学系学部や教員養成系学部を削減し、理工系学部を増やすように誘導していました。しかし、政府がやるべきことは、人文社会科学系や教員養成系の学部を「役に立たない」と削減するよりも、まず理工系学部のなかのリソースの配分を社会のニーズに合ったものに変えることだと思います。もちろん人文社会科学系の学部の再編や学ぶ内容の見直しも不断に行うべきですが、「人文社会科学系を減らして、理工系を増やせ」という単純な論法は誤りだと思います。
私の記憶が正しければ、アメリカでもっとも修士課程の学生数が多いのは教育学部です。アメリカの学校教員はスキルアップに力を入れて修士号を取得することを好み、そうすると給与や待遇もアップします。アメリカの例にならうのであれば、教員養成系学部は減らすどころか、むしろ大学院の修士課程を強化した方がよいと思います。教育学修士の私がいうと我田引水ですが、、、
*参考文献:野口悠紀雄 2022年「円安が日本を滅ぼす」中央公論新社