自民党政権の危機管理の失敗シリーズもこれで最後にします。
安倍・菅政権で官邸に権力が集中しました。「何でも官邸団」状態で情報と意思決定機能が官邸に集まり過ぎているのだと思います。その結果、官邸がオーバーフロー状態に陥り、迅速かつ正確な意思決定ができなくなっているのだと思います。
平時なら情報のオーバーフローもさほど問題ないかもしれません。しかし、危機にあたっては情報のオーバーフローは危険です。大きな方向性は官邸が示しつつも、個別具体的な対策は分権型の意思決定システムで決めた方がよいと思います。
危機の政策決定にあたっては、前回ブログでご紹介した阿部圭史氏(元WHO健康危機管理官)の「感染症の国家戦略」で推奨される「契約型指揮法(ミッション・コマンド=Mission Command)」でいうところの「集権的統制」と「分散型実行」の組み合わせが重要です。
他の軍事戦略の本では「ミッション・コマンド」を「委任型指揮」と訳したりしますが、もともとプロイセン軍で開発された効果的な指揮法であり、第二次大戦できわめて優秀だったドイツ国防軍の指揮法です。
戦後はアメリカはじめ世界各国の軍隊が、ドイツ国防軍戦闘効率の高さの原因を追究し、自国の軍隊の指揮法の改善につなげています。ドイツ軍式のミッション・コマンドをもっとも活用しているのがイスラエル軍だといわれています。ユダヤ人国家の軍隊が第二次大戦中のドイツ軍の手法を学んでいる点も興味深いです。
ミッション・コマンド的な意思決定においては、指揮官は目的や意図を明確に説明するとともに、実行にあたっては現場に権限を委譲することが大切です。つまり「集権的統制」と「分散型実行」です。
しかし、安倍・菅政権の意思決定は、何でも官邸に上げないといけないため、現場の裁量の幅が狭く、意思決定に時間がかかり後手後手の対応になったのではないかと推測されます。
官僚は、総理や官房長官から「オレは聞いてない」と言われるのを極度に恐れ、さらにその罰として詰め腹を切らされるリスクを避けるため、何でも官邸に上げるようになったのではないかと思います。
手嶋龍一氏が危機の指導者が取るべき姿勢として次のように述べています。
些細な実務や小さな決定に手を出してはならない。国家の命運を左右する局面での決断に持てる全てを注いで、淡々と結果責任を担ってみせる。
安倍・菅政権の場合は、降格人事(=左遷)で「結果責任」を取らされるのは官僚です。官僚が委縮して自分で判断するのをやめてしまったのではないかと思います。
安倍・菅政治の9年間で「政と官」の関係がすっかりいびつになりました。そのことが危機管理の失敗につながったと思います。そして結果的に、安倍政権と菅政権はどちらもコロナ危機に倒されました。
国内のコロナ危機で不十分な対応をとり、アフガニスタン危機も後手後手の対応で失敗し、いまの自民党政権の危機管理能力の低さは明らかです。今こそ政治を変えるときです。
*参考文献:
阿部圭史 2021年「感染症の国家戦略」東洋経済新報社
手嶋龍一 2011年「ブラック・スワン降臨」新潮社