世の中は変わりつつあります。日本でもっとも温室効果ガス・CO2を排出しているのは電力会社と鉄鋼会社ですが、そういった企業の影響力が強い経団連がやっと炭素税導入を容認する方針へ舵を切りました。
環境省は前々から炭素税の導入に前向きでしたが、経団連の動き等も踏まえ、来年度の税制改正で炭素税の本格導入を目指す方針だそうです。
いまも炭素税に似た「地球温暖化対策税」という税金はありますが、あまりにも課税額が少ないため、炭素排出を抑制する効果が薄いです。炭素税は「炭素を排出すると税金がかかるので、排出量を減らそう」という方向へ持っていくのが目的ですが、低すぎる税額では排出抑制の効果が薄いです。
炭素税は、地球温暖化(気候変動)対策と財源確保の一石二鳥の効果が期待できます。ただし、炭素税に反対する企業や業界団体も多いので、国民の理解と納得を得る必要があります。したがって、炭素税の増収分は国民(あるいは企業)の利益になる政策に活用し、「財政中立的」なかたちで炭素税を導入する必要があります。
たとえば、ドイツのように炭素税の税収を雇用保険や社会保険の財源にあてれば、企業と労働者の雇用保険料の負担を軽減できます。社会保険料の企業負担が減ると、企業は正社員を雇いやすくなります。社会保険料負担の重さが、非正規雇用が増える理由のひとつになっています。したがって、企業の社会保険料負担の軽減は、非正規雇用を減らす効果も期待できます。
さらに炭素税の導入は、脱炭素化に向けた産業構造の転換に役立ちます。知識集約型産業やサービス業にとっては炭素税はあまり負担になりませんが、エネルギー多消費(炭素多排出)産業にとっては負担増になります。
炭素税は再生可能エネルギーにとっての追い風にもなります。化石燃料を燃やして電力をつくるより、再生可能エネルギーと省エネに投資する方がもうかるようになり、エネルギーシフトを加速します。
エネルギー節約型の企業にとっては、炭素税導入による社会保険料の企業負担軽減のメリットは大きいはずです。そういった企業が炭素税導入を支持すれば、炭素税反対派の圧力を跳ね返す力になります。
ドイツ型の炭素税を導入できれば、① CO2の排出量を削減できて、②社会保険料の企業負担が軽減され、③雇用増加と雇用安定化を達成できるため、一石三鳥の政策になるかもしれません。
なお、炭素税を導入して「炭素排出量1トンあたり〇〇〇円」といった形式で課税する場合には、既存のガソリン税は廃止して、炭素税に一本化することになると思います。ガソリン税はきわめて高い税金(1リットル=53.8円)なので、「炭素排出量1トンあたり〇〇〇円」といったかたちの課税に切り替えても、ほとんど増税にならないと思います。
もっともガソリン税廃止でガソリンが減税になってしまうと、炭素排出量を押し上げることになります。したがって、減税にならない程度の水準に炭素税が設定されることでしょう。炭素税を導入しても自動車ユーザーには増税にも減税にもならない程度の税額がよいでしょう。
いまや炭素税は先進国のトレンドです。さすがの経団連さえも炭素税に反対できない雰囲気になっています。早急に炭素税を導入するべきです。