岩波書店「科学」2021年5月号の投稿論文のご紹介です。慶応大学の濱岡豊教授の「COVID-19対策の諸問題(4)都道府県による対策の評価試論」という論文です。これは47都道府県の対策を次の4カテゴリ10指標で評価を試みたものです。
健康影響
- 人口あたり累積検査陽性者
- 累積陽性者致死率
- 累積陽性率
対策
- 累積陽性者あたり累積検査人数
- 人口あたり受入確保病床数
- 自宅療養率
市民の協力
- 人流(乗換駅)
- 人流(居住地区)
経済影響
- 客室稼働率(前年比)
- 消費支出金額(前年比)
効果的なコロナ対策をとってきた県は、1位が鳥取県、2位が島根県でした。そして最下位が大阪府、ワースト2位が東京都でした。人口の少ない県が有利になりやすく、人口の多い県が不利になりやすい点は割り引くとしても、地方自治体の方針が結果を左右したこと間違いないようです。
鳥取県は累積陽性者あたりの累積検査人数が多く、陽性者数が少ない段階から多くの検査を行っています。感染者を早期発見し、隔離もしくは療養してもらうことにより、陽性率を低く抑え、自宅療養者も発生していません。感染症対策の基本である「検査と隔離」を徹底しているのが、鳥取県の成功要因です。
それに対して大阪府は全般的に検査不足だと濱岡氏は指摘します。大阪府は病床も確保できていないため、自宅療養率が高い傾向が見られます。この論文は今年3月22日時点のデータに基づいていますが、その後の大阪府の状況はさらに悪化しています。基本の「検査と隔離」ができていないのが大阪府の特徴です。
濱岡氏は次のように指摘します。
朝日新聞の調査(2020年12月29日)によると、コロナ対応で評価する政治家として大阪府・吉村知事、東京都・小池知事が上位2位であったという。ここでのランキングは、それとはまったく反対の結果である。市民を対象とした調査では、メディアに登場し語る者が上位にランキングされるのはある意味仕方がない部分もある。しかし、COVID-19による健康や経済への影響を見る限り、そのような劇場型の政策には意味がないことがわかる。(中略)
劇場型政策ではなく、国内外の成功例、つまり検査によって早めに感染者を見いだし、隔離・治療するという感染症対策の基本に転換するべきである。
大阪府知事は、イソジンでうがいしたり、レインコートを集めたり、飲食店の「見回り隊」を組織したりと、独創的なコロナ対策を次から次に繰り出していますが、その結果が今の惨状です。奇想天外な解決策に頼るより、基本に忠実に「検査と隔離」を徹底するしかないのだと思います。
また、大阪府は過去10年以上にわたって府立の医療機関への支出を削減し、保健所の数と職員を減らし、「身を切る改革」の旗印のもとで、府民の命を守る医療サービスを切り捨ててきました。その影響がコロナ対策にも出ているのでしょう。
テレビ映りやインスタ映えのよい知事よりも、地味に検査と隔離を徹底する知事を選んだ方がよさそうです。歯切れのよいトークより、科学に基づく地道な実践が大切です。命と暮らしを守るには、「小さな政府」のスローガンのもとで行政サービスを弱体化してきた政治の流れを逆転させなくてはいけないことが、コロナ禍で明らかになったと思います。
*参考文献:濱岡豊「COVID-19対策の諸問題(4)都道府県による対策の評価試論」岩波書店「科学」2021年5月号