誰だったか忘れましたが(フランシス・フクヤマだったような気が?)、リベラル民主主義を志向する国が「めざすべき理想の国」としてデンマークを上げていました。デンマークは、国民幸福度が高く、高福祉の国であり、かつ、国際競争力のある産業を持ち、それでいて脱炭素化を進め、コペンハーゲンの都市計画は世界のモデルとされています。内村鑑三の時代からずっとデンマークはめざすべき国なのかもしれません。
良いことずくめのデンマークという感じですが、高福祉や国際競争力のある産業の前提には高負担(高い税金)があるのも事実です。先日、在日デンマーク大使を党内の勉強会にお招きして、デンマークの福祉や環境政策についてお話をうかがった時にそのことを実感しました。
デンマークでは社会保障の財源は、社会保険料ではなく、すべて税金です。介護も医療も無償です。基礎年金も、保険料がなくて、税金で賄われます。手厚い社会保障が、すべて税金で賄われているため、税率は高く、国民負担率も高いです。しかし、医療も介護も年金もすべての人が安心してサービスを受けられます。
介護は無料。必要な介護サービスは24時間受けられ、自宅での介護が基本です。介護職は地方公務員です。非正規雇用の介護士はいないわけです。高齢者の年金は月額で約20万円と手厚いです。
保育サービスも充実しています。地方自治体には、希望するすべての子どもに保育サービスを保障する義務があります。子ども手当もあります。産休と育休も手厚く、出産や育児で仕事を辞める人は少ないです。女性の社会的地位は高く、男女平等という感覚が徹底しています。国民1人当たりの子ども関連の政府支出は、日本が14,392円に対して、デンマークは95,454円です。
医療費も無償で、不妊治療も無償です。医療保険制度は1973年に廃止されました(財源を税に換えたため)。人口当たりの医師数と看護師数は日本より多く、手厚い医療体制です。コロナ対策でも検査体制は日本と比べものにならないくらい充実していて、ワクチン接種も日本よりずっと順調です。
一人当たりの国民所得もデンマークの方がだいぶ多く、経済的に豊かであり、かつ社会保障制度や子育て支援が充実していて安心できる社会です。私もデンマークのような国はモデルになると思います。自然エネルギーや省エネでも先進国です。
医療保険も介護保険も年金保険料もなく、すべて税で負担することにはそれなりにメリットもあります。メリットがあるからこそデンマークは医療保険制度を廃止したのだと思います。ものすごく大雑把にいえば、保険料をなくせば、日本年金機構も協会けんぽも必要なくなります。たとえば、日本年金機構の従業員(非正規雇用含む)は約2万人くらいで、年間予算が3千億円超ですが、そういった管理費の部分は削減できます。
もちろん社会保険制度を大改革して保険料徴収をやめるのは、時間も労力も政治力も必要で簡単なことではありません。すぐに着手すべき優先課題でもありません。その前にやることはたくさんあります。
しかし、増税するけれど、その代わり社会保険料負担が減るのであれば、低中所得層にはメリットの方が大きい可能性があります。社会保険料は高所得者でも「負担額」に上限があるため、超富裕層の「負担率」は低くなる傾向があります。税金よりも社会保険料の方が、所得の再分配機能が弱くなります。
これまで増税には抵抗感が強いけれど、社会保険料の値上げの方が抵抗感が低いため、安易に社会保険料が値上げされてきたように思います。社会保険料だと、「いつか自分に返ってくるお金」という感覚があり、負担増への抵抗感がやや薄れます。それに対して増税への心理的抵抗感は強く、増税より保険料の値上げが選ばれやすい雰囲気がありました。
医療や介護、障がい者福祉や子育て支援を充実させるためには財源が必要です。財源なきバラマキではいつか悲惨な結果を招きます。デンマークみたいに国民幸福度の高い国をつくるためには、増税がいいのか、それとも保険料の値上げがいいのか、冷静に分析してみることも必要かもしれません。