コロナ危機が「法人税引き下げ競争」を終わらせる。

先進各国で1980年代以降あいついで法人税率が引き下げられてきました。「法人税引き下げ競争」と呼ばれ、新自由主義路線のサッチャー政権(英国)とレーガン政権(米国)が口火を切りました。日本もその波に乗り、法人税の引き下げ競争に参加してきました。

安倍政権下の平成27年度および28年度にも法人税率を引き下げ、「法定実効税率」は改定前の34.62%から29.74%に下がりました。こんなに法人税率が下がったのは、ここ20~30年のことです。1980年代の日米英独仏の法人実効税率は50~60%でした。

経済のグローバル化が進むなかで、各国政府は、多国籍企業の資本を呼び込むため、立地競争力の決定要因のひとつの法人税を競うように引き下げました。税金が安いのは良いことのように思えるかもしれませんが、納税者の立場から見ればデメリットも大きいです。

法人税を下げれば、当然ながら税収は減ります。税収減を補うため、移動性の低い税源への課税が増税されました。その最たるものは消費税増税です。法人税の減税による減収を補うために、すべての国民が払う消費税を上げてきた歴史があります。

しかし、法人税率の引き下げ競争にも変化が現れました。原因はコロナ危機にともなう財政支出拡大です。コロナ危機の真っ最中には、給付金や医療費などで財政出は増えます。増えた支出の財源確保のため、法人税を引き上げる動きが出てきました。

米国のバイデン大統領は、コロナ後の経済復興の財源を確保するため、法人税を現行の21%から28%に引き上げる方針です。米国では、連邦政府の法人税の他に州政府が法人税をかけることもあります。例えば、カリフォルニア州の法人税は8.84%なので、合計で36.84%となり、日本の法人税の方が安くなります。

英国も約半世紀ぶりに法人税を引き上げます。コロナ禍の経済危機が終わっている頃だろうという見込みのもと、2023年から現行の19%から25%に引き上げる方針です。保守党のサッチャー首相が大幅に引き下げた法人税を、保守党のボリス・ジョンソン首相が引き上げるという歴史的な大転換です。

新自由主義的な経済政策の柱が、法人税の引き下げによる国際競争力強化でした。新自由主義をリードしてきた米国と英国がそろって法人税を引き上げるのは、潮目の変化を象徴しています。いまは「歴史の転換点」だと思います。

今年(2021年)中にはOECDを中心にして議論してきた「GAFA課税」の方針が固まる見込みです。多国籍企業の租税回避行為を防ぎ、公平な課税をめざす国際的な動きです。望ましい方向だと思います。

日本も法人税引き下げ競争から降りて、公平な税制をめざすべきです。過去30年近くにわたって法人税を引き下げ、所得税の累進性を低くして富裕層減税をすすめ、税の再分配機能が弱くなりました。税の再分配機能の低下が、格差社会を生みました。コロナ危機のいまこそ「税の公平化」を進めるべきタイミングです。