最近の内閣官房の組織図を見たら、とんでもないことになっています。「〇〇〇本部事務局」とか、「△△△対策推進室」とか、内閣官房に置く必要がなさそうな部署も含めて、すごい数の部署が内閣官房にぶら下がっています。
確かに必要そうな部署もあります。しかし、もう必要なさそうな部署や各省庁に置いた方がよさそうな部署がたくさんあります。例えば、内閣官房に置かなくてよさそうな部署としては以下があります。
・教育再生実行会議担当室 ⇒不要。文部科学省がやればいい。
・国土強靭化推進室 ⇒国土交通省に置いた方がよいのでは?
・健康医療戦略室 ⇒厚生労働省がやればよいのでは?
・産業遺産の世界遺産登録推進室 ⇒文部科学省(文化庁)がやればよい。
・一億総活躍推進室 ⇒安倍総理の遺産。すでに忘れられた存在。
・観光戦略実行推進室 ⇒何のために観光庁を設置したのか?
・働き方改革実現推進室 ⇒厚生労働省がやればよいのでは?
・特定複合観光施設区域整備推進室 ⇒観光庁や国土交通省でよいのでは?
・人生100年時代構想推進室 ⇒安倍総理の置き土産。忘れられたテーマ。
・イノベーション推進室 ⇒なぞの組織。どうやったらイノベーションが起きるのか簡単にわかるなら苦労しない。たぶん不要。
・プレミアム付商品券施策推進室 ⇒もういらないでしょう。
内閣官房にあえて置く必要のない部署がたくさんありそうです。安倍政権の置き土産みたいな部署の公務員の皆さんは、退屈しているか、無理やり仕事を創っているか、どっちかだと推測されます。どっちにしても税金のムダです。
厚生労働省や国土交通省、文部科学省でやればいい政策課題の部署が、なぜか内閣官房に設置される傾向があります。この3つの省を除く他省庁の政策課題は、さほど内閣官房がタッチしていません。これらの3省庁の現場の声を無視して「官邸主導」で進めるために、そうしているようにも見えます。
おそらく多数の経産省キャリアが内閣官房に出向し、他省庁の領域を侵犯しているのだと思います。GIGAスクール構想なども経産官僚が教育再生実行会議担当室に乗り込み、文科省に押しつけているのかもしれません。
内閣官房にいろんな機能が集中する弊害は、現場からより遠くなる点だと思います。各省庁の政策実施の現場や技術系官僚などの専門知をいかすには、内閣官房への過度な権限集中は望ましくないと思います。
タテ割りの弊害がある一方で、官邸や内閣官房への一極集中の弊害もあります。いまではタテ割りの弊害よりも、一極集中の弊害の方が大きくなっているのではないかと思います。要はバランスです。バランスが悪すぎていびつな構造になっています。
内閣官房一極集中(=官邸一極集中)の弊害は、コロナ対策で顕著に表に出ました。アベノマスクとか、学校の一斉休校とか、官邸官僚の専横と言ってもよいかもしれません。現場を持っている各省庁の官僚は、苦々しく思っているでしょう。
新型コロナウイルスのワクチン接種にあたっては、本来は主管の田村厚生労働大臣がいるのに、コロナ担当の西村大臣、ワクチン担当の河野大臣と3人の大臣が関わっています。さらに省庁間調整はそもそも官房長官の役割です。それに地方自治体が関係するので総務大臣も重要です。ワクチン対策が「船頭多くして船山に上る」という状況になっていないか心配です。
内閣官房への権限集中と肥大化、ラインの各省庁の軽視(とそれによる専門知の軽視)、複数の大臣の縄張り争い(功名争い)と、ワクチン問題への取り組み方を見ても、菅政権の統治能力に疑問符が付きます。
これからの行政改革の重要テーマは、行き過ぎた官邸主導の抑制、肥大化した内閣官房のスリム化、官僚制の健全な自律性の確保、専門知をいかせる行政システムの再建だと思います。政と官の程よい距離感、適切な緊張感を取り戻す必要があります。
コロナ対策では科学や専門知の重要性を再認識させられました。政治家や官邸官僚の「思いつき」に基づく政策決定を改め、エビデンスと専門知に基づく政策決定ができる体制が求められます。
*参考文献:新藤宗幸 2020年「新自由主義にゆがむ公共政策」朝日新聞出版