新型コロナウイルス感染症で世界も社会も大きく変わりました。国際援助の世界も大きな変化が起きていると思います。日本のODAの大半を実施するJICAは技術協力を重視してきましたが、その主な手段は日本人専門家の派遣と発展途上国からの研修員受け入れです。
私がJICA職員だった頃の標語は「国づくり、人づくり、心のふれあい」だったと思います。しかし、海外との人の行き来が極端に限られ、専門家の派遣も、研修員の受入れもむずかしくなりました。JICAにとっては手足を縛られたようなものかもしれません。
しかし、日本人の専門家が直接現地に行かなくても、海外から研修生を招かなくても、実施できる援助のやり方はいくつもあります。たとえば、JICAの現地事務所や現地の日本大使館に権限と予算を委譲して、現地の人材を活用して技術協力プログラムを実施したり、現地のNGOに資金提供して教育や保健医療、水供給などを支援することもできます。
私がいた頃のJICAはけっこう中央集権的な組織でしたが、その後、緒方貞子理事長のもとで現地事務所への権限移譲も進んだと聞いています。コロナ禍の現在、そういった現地への権限移譲の流れをさらに拡大し、現地事務所のイニシアチブと創意工夫で事業を実施できるようにすることも大切です。
また、国際的な枠組みへの日本政府の拠出金を増やすことで、日本のプレゼンスを示すこともできます。たとえば、発展途上国の教育を支援するための国際的枠組みの「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」に対し、日本政府の拠出金を増やすことも有益です。
日本のNGOのネットワーク組織である「教育協力NGOネットワーク(JEEN)」は、外務省に対して次の提言を行っています。
1.日本政府の教育協力政策の中で、脆弱国を含む低所得国、紛争および災害影響国への基礎教育支援ツールとしてGPEを戦略的に位置づける。
2.次回GPE増資会合に閣僚級が日本を代表して参加し、年間5,000万米ドルの拠出を表明することによって、GPE理事席を確保し、日本政府の声をGPEの戦略・計画に反映させる。
よいアイデアだと思います。コロナ危機により世界中で学校が休校され、子どもたちの学ぶ機会が奪われています。発展途上国などではオンライン授業どころではない国が大半であり、基礎教育に対する国際的な支援が不可欠です。
NGOが提案している5,000万米ドルというのは、オーストラリアやアラブ首長国連邦(UAE)と同じ金額です。人口を見ると、オーストラリアは約2,500万人、アラブ首長国は約900万人ほどの中堅国です。世界第三の経済大国であり、先進民主主義国として世界第二の大国の日本が5,000万米ドルというのは控え目な数字です。
人の行き来ができなくなってJICAの技術協力事業などは事業費が縮小していると思いわれます。その削減分の予算をGPEに振り向ければよいと思います。決して不可能なことではありません。
GPE増資とあわせて、外務大臣には閣僚級会合に行ってほしいと思います。会議に出て日本政府がコロナ禍で苦しむ低所得国や紛争地の基礎教育を支えるという意志表示をしてほしいと思います。自国中心主義のトランプ大統領が去った今こそ、米国や欧州連合と連携して、国際社会の公共益に貢献する日本をめざしてほしいと思います。