GAFA課税を導入すべき

私は、いわゆる「GAFA課税(デジタル課税)」に取りくみ、立憲民主党の衆院選公約に掲げるべきだと思っています。そんなときに諸富徹教授(京都大学)の新著「グローバル・タックス」(岩波新書)が出たので読んでみました。

諸富先生によると、1980年代ごろから経済のグローバル化と「非物質化」が進み、多国籍企業や富裕層がタックス・ヘイブン(租税回避地)に所得を移し、課税を逃れる傾向が強まっています。多国籍企業や高所得者は、税の専門家に高いお金を払って、節税のために所得を海外の低税率国(租税回避地)に移転します。

各国政府は、租税回避を防ぐため、競って法人税を引き下げたり、高所得者の所得税の最高税率を引き下げたり(所得税のフラット化)します。法人税減税や高所得者の所得税減税のあおりを食うのは、労働者の所得税や消費税のように「取りやすい税」です。結果的に税制の所得再分配機能は低下し、所得格差は拡大します。

国際的な課税逃れに関しては、経済のグローバル化も重要ですが、経済の「非物質化」も重要です。自動車とか鉄鋼のようにかさばるモノだと課税しやすいのですが、知的所有権やサービスに関わる収益は目に見えず捕捉しにくいため課税逃れがより容易です。その典型がGAFAのサービスです。以上の問題に対処するため、諸富教授は「課税権力のグローバル化」しかないと言います。

いわゆる「GAFA課税」が国際的な議論になっています。OECDは、2021年半ばまでに課税根拠の見直し、および、税逃れ防止の関する国際的な合意を目指す方針です。フランスやイギリスはいち早く実現に向けて動き出しています。

こういった多国籍企業への適切な課税によってどれくらいの税収が増えるかをOECDが推計しています。世界全体で法人税収が約4%増加し、増収総額は1000億ドル(約10.6兆円)に上るそうです。

OECD加盟国のODA総額がだいたい1500億ドルなので、多国籍企業の租税回避封じの1000億ドルの増収はけっこうな金額です。この増収額をコロナ予防ワクチンなどの「国際公共益」のために使うことができれば、世界はより良い方向に向かうでしょう。

仮に国際公共益のために使えなくても、日本政府の税収が増えれば、社会保障や教育、低所得者支援などの財源にでき、大きなインパクトがあるでしょう。

租税回避という不公正で不毛な目的に多大な労力がムダに費やされていることは、大いなる社会的損失です。多国籍企業や富裕層の税金逃れを手助けすることで成り立っているのが「租税回避産業(tax-dodging industry)」であり、その代表選手が四大会計事務所です。

デロイト、アーンスト&ヤング、KPMG、プライスウォーターハウスクーパースは「ビッグフォー」と呼ばれ、そういった企業で「租税回避産業」に従事する従業員は世界で25万人と言われています。とても優秀な頭脳を持つ高給取りのエリートがやっている仕事が租税回避というのは残念です。まさに故デヴィッド・グレーバー氏の言う「ブルシットジョブ」の典型です。

意外なことにGAFAの経営トップの多くは、GAFA課税に好意的です。アップルCEO のティム・クックはOECDの法人税体系の改革に好意的なコメントを発し、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグもグローバル・デジタル課税を支持すると表明しています。

GAFAの経営陣は賢くてOECD加盟国政府や世界の世論を敵に回すことの不利を悟っているのかもしれません。あるいは、マイクロソフトのビルゲイツ氏のように国際公共益に心から賛同しているのかもしれません。いずれにしてもGAFA課税にGAFA経営陣が好意的な傾向があるのはよいことです。躊躇する理由がひとつ減ります。

日本政府がGAFA課税を導入した場合、どれくらいの税収増があるのかは、モデル次第ですし、今の段階では推計もむずかしいかもしれません。しかし、イギリスやフランスの例を見ていると、1兆円は超えないにしても、数千億円単位の税収増にはつながると思います。たとえば、学校給食の無償化に必要な4,400億円くらいは、GAFA課税で捻出できるのではないかと思います。GAFA課税を導入しない理由はないと私は思います。

*参考文献:諸富徹 2020年「グローバル・タックス」岩波新書